陽編 ちゃんと父親だよ
なんにせよ今日の陽と和の仕事は終わりだ。
「お疲れさまです。お茶の用意ができてますよ」
夕食まではさすがにまだ早い時間だったのもあって、オリコンやクーラーボックスの片付けをイレーネとドーベルマンDK-aらに任せたセシリアがそう声を掛けると、
「分かった」
「ありがとう、セシリア」
二人も笑顔で応えた。俺とシモーヌも一息つくためにいつもの団欒用のテーブルに。すると、
「萌花、錬慈、おやつ食べる?」
光が密林に向かって声を掛けるのが聞こえた。と、
「は〜い♡」
木々の間から声を揃えて萌花と錬慈が応えつつ現れた。その背後にはエレクシア。二人の警護のために付き添ってくれてたんだ。
集落との境目から数十メートル程度までは<遊び場兼学びの場>として立ち入りを許可している。十分に安全は確保されているしエレクシアが一緒ならそれこそ何も心配要らない。
この程度の距離なら、イレーネやドーベルマンDK-aらと連携することで<俺の警護>も同時にこなせるしな。
こうして家族が集まり<ティータイム>が始まる。この時ばかりは順もみんなと同じ席に着く。まあ、鋭も玲もメイも出掛けてていないからというのもあるだろうが。特に鋭がいる時には絶対に家から出てこない。
順は相変わらず臆病なところがあるが、それは逆に、
『野生を失ってない』
という意味でもある気がする。平和で平穏な環境に慣れ切ってしまって野生を失ってしまう<元野生動物>もいたりするそうだが、順はちゃんと野生の頃の警戒心は維持してるんだ。その分、『人間になり切れてない』とも言えてしまうかもしれないにしても、事実として振る舞いは完全な人間のそれにはなれていないにしても、別に構わないと俺は思ってる。光や子供達との関係も良好で、問題はない。
確かに地球人社会でならあれこれ揶揄されたりする可能性はあってもここじゃそれもないしな。人間がするような<仕事>はしてなくても、必要とあらば食事は自分で確保するし、家族のために果実や木の実の採集もしてくれる。それで十分だ。<鍛冶職人>として立派に仕事をしてる斗真と比べてしまう者もいるかもしれないが、身内が『それでいい』と言ってるんだから赤の他人が余計な口出しをするべきじゃないだろうさ。法に触れるようなものでもない限りは。
順は、陽や和や萌花にとってはちゃんと<父親>だよ。ずっと傍で見てきた俺が保証する。地球人社会で思われている<父親像>とは少しばかり違うだけで。
だが環境が違うんだから違っててもむしろ当然だろうさ。




