陽編 自分の働きが自分達の生活を
だから陽と和には勝手な判断で余計なことはしないように頼んである。
<命のやりとりの現場で指示を待ってられないような事態>
以外では。特に今回のような仕事の場合。
もちろん<仕事の手順>に関係ない部分は好きにやってもらって構わないさ。運転が疎かにならない程度なら会話を楽しんでてくれていいし、なんなら運転してない方は寝ててくれても問題ない。運転を途中で交代してもいい。その辺りについてはあらかじめ告げてあるし。
あくまでも仕事を確実にこなしてもらえればいいんだから、それ以外にまでとやかく言わないし、そんなことをいちいち言わなくても二人は真面目に誠実に仕事をこなしてくれる。そうすることが二人にとって<当たり前のこと>なんだ。
その一方で、今はここには<通貨>がない。つまり<金>が存在してない。
『金をもらわない仕事は雑になる』
と誰かが言ってたらしいが、実は俺もそう思うが、現状ではそこまで<雑な仕事>にはなってないんだよな。これはあくまで、
『自分の働きが自分達の生活を成り立たせてる明確な実感がある』
からだろうな。地球人社会においては『自分の働きが社会を成り立たせてる』なんて実感はまるでなかったから具体的な対価として<金>が必須だったんだろう。現在は、
『自分自身の生き甲斐のために働く』
という面が強くなっているから、
『自身の矜持として仕事に責任を持つ』
者も多いものの、それでも<対価>はちゃんと用意するべきだしな。そもそも対価を用意せず働かせるのは普通に違反だ。<無給のボランティア>でもない限り。しかも無給のボランティアであってもきちんと<書面>にて双方の合意の下で委託するという形を取る必要があるし、活動の最中に怪我などがあればきちんと補償する義務が<ボランティアを募集する側>には生じるんだ。
まあその責任を負いたくないからと多くの<ボランティア団体>が解散したという話だ。
『責任を負いたくないから解散する』とは、その程度の覚悟でボランティアを標榜していたのなら『何を目的にやってたんだ?』とは勘繰ってしまうよな。実際、『その責任を負ってでも活動は続ける』と存続した団体もあったそうだし。
もっとも、ロボットが進歩し人間と同じ働きができるようになったら<生身の人間が務めるボランティア>そのものが急速に廃れていったらしい。当然か、
<被災地で十分な食事と休める場所を要求してくる観光気分の自称ボランティア>
なんてのがざらにいるようじゃ、そりゃロボットの方がありがたいだろう。




