陽編 本気で拘るのなら
陽と和は、帰りもまったく問題なく焦ることなく淡々と道程をこなし、日が暮れる前に帰ってきた。
とはいえ<仕事>はまだ終わらない。受け取ってきた物資を下ろさなきゃいけないからな。
光莉号にはそのための設備もある。ローバーをカーゴルームに収容するためのエレベーターにロボットアームが備えられているんだよ。耐荷重は一トン。今回の荷物であれば余裕だ。ただし、こちらはクレーンやフォークリフトと同じカテゴリの<荷役用>なので、パワーがあり剛性も耐久性も<汎用ロボット>を圧倒するが、その分、緻密な作業にはまったく適さない。そして可動範囲も限定される。だが、それでいい。一つで何でもこなせる<万能の道具>というのは、あれば確かに便利ではあるものの、一つの使い道に特化した道具にはどうしても一歩及ばない部分があるのも事実だよな。エレクシアも高い戦闘能力は持つとはいえそこも軍用の戦闘ロボットには敵わないし、<戦闘に堪えうるように設計された要人警護仕様のメイトギア>の機体は、実は繊細さにおいて一般仕様のメイトギアのハイエンド機には敵わない。だから本気で拘るのならちゃんと専用のロボットを使うべきだという話だ。俺はそこまで拘ってないからエレクシアでも十分だったけどな。
とまあそれは余談なので今は脇に置くとして、実際の荷下ろしは<荷役用ロボットアーム>を持つ光莉号が行ってくれる。陽と和は<管理者>として立ち会う形だ。AIは完全に人間と同様の思考と判断ができるようになったとはいえ<責任>を負うのはあくまでも人間だし。だから完全に任せきりにはしない。
もっとも、今の時点では光莉号のAIは陽も和も<人間>とは認めていないから、実際には俺がカメラ越しに見守っている形だったりもする。そう、<実際の責任者>はあくまで俺なんだ。こういう点でも陽達を人間と認めてくれるAIが必要ということだな。
頼めば一応聞き届けてもくれるものの<人間>と対立するような状況になれば、人間側が明らかな不法行為でも行っていない限りは検討の余地もなく協力してくれなくなる。さりとて形の上だけでも<責任者としての役目>も経験しておいてもらいたいからやってもらってるんだ。人間のような感情を持たないAIはそれを『馬鹿馬鹿しい』みたいに言ってボイコットもしない。だから『実地演習にはもってこい』って感じと言えるか。実際の地球人社会での現場と何ら変わらない動きをしてくれるし。
人間の場合はその辺り、ついつい手抜きしたりってこともあるだろう?




