陽編 今の関係があるだけ
だからこそ自分をはっきりと受け止めてくれている陽と和のことが麗は大好きだった。和となら陽を『共有する』ことも問題なかった。もちろんヤキモチを妬いたりすることもあるもののそれは陰湿な印象でも粘っこい印象でもない。すごく真っ直ぐで真正面から向かってくる気持ちだ。
『この雄が好き。だから邪魔しないで』
と言いたいだけなんだと俺にさえ伝わってくる。でも今は美味しい果実をたらふく食べて、なのにうっかり失敗してお尻が痛いことに不機嫌になっているようだった。とはいえ、陽と和に労わってもらえて、拗ねたような表情でローバーのシートに収まるだけで済んだ。そんな麗を見て陽も和も笑顔になる。
「じゃあ、帰ろうか」
言いつつ陽は運転席に着いて、和は助手席に着く。そしてシートベルトを着けるとローバーのスイッチをオン。アクセルを踏み込み「ルーン」と音を立ててローバーがゆっくりと動き出した。
未舗装の密林の道を進み、帰路に。
と、しばらく走ったところで麗は助手席の方へと身を乗り出してくるりと体を反転させ、和に自分のお尻を突き出す。
「痛かったね。よしよし♡」
和はすぐに意図を察して白い毛に包まれた麗のお尻を撫でてくれた。まるで小さな子をあやすように。
麗としては陽にもお尻を撫でてほしいのかもしれないが、運転中はそれができないことは理解しているようで、和に撫でてもらおうとしたんだろう。つまりそれだけ和のことも好きだというわけだ。
和も子供のように甘えてくる麗を煙たがったり疎んだりしない。煩わしそうな気配さえ見せない。なにしろ和も麗のことが好きなのだから。
兄弟姉妹のように育ち、けれど血の繋がった家族というわけではないことをしっかりと理解し、その上でお互いを認めてきた。ゆえにこの関係はこの三人にとってはごくごく当たり前で自然なものなんだ。
ビアンカが灯や來と『久利生を共有する』のは、はっきりとそう意識して理性で自らを納得させているからこそ成立しているのは俺も承知している。<地球人の感覚>としてそういう関係性は<普通>じゃないからな。あくまで<朋群という世界>だからこそ成り立つものだと頭で理解してこそのものだった。これはたぶん、シモーヌも同じ。シモーヌの場合は密や刃や伏や鷹が亡くなった後だったからビアンカとは事情が違うものの、俺が今でも密達を愛してることについては複雑な気持ちもないわけじゃないんだ。ただそれがちゃんと腑に落ちているからこそ今の関係があるだけで。




