陽編 母親には勝てないな
『お互いに都合がいいだけの存在じゃない』
これは、それこそありとあらゆる状況において当てはまる話なんじゃないか? 他人との関係でもそうだし、家族相手でもそうだ。もちろん人間とそれ以外の生き物とでも当てはまるだろう。人間の道具であるはずのロボットでさえ、散々触れてきたように『何でも人間の言いなりになる』わけじゃないからな。主人がどんなに感情的になっても『人間を傷付ける』『危害を加える』ということには協力してくれないし。
つまり『自分に都合がいいわけじゃない』ってことだろう? ロボットとの関係でさえそうなんだから人間同士ともなればなおさらだ。
陽と和だってとても仲が良くて喧嘩なんかしそうにないように見えるが、実際、喧嘩らしい喧嘩はしないが、<すれ違い>はそれなりにあるんだよ。陽はすぐにでも子供が欲しいと思ってるものの、和はまだもう少し今の関係でいたいと思ってる。そして実は麗のことも本音ではヤキモチも妬いている。自分だけを見てほしいと、陽を独占したいと思ってる。
だがその一方で、麗のことも確かに好きなんだ。相手が麗だから陽を『共有』することも受け入れられた。麗がいない自分達の関係は有り得ないとも考えてる。
酷い矛盾だ。だが、人間の心というのはそういうものだろう?
何しろ先ほどは『陽の方がすぐにでも子供が欲しいと思ってる』と言ったが、和も心の片隅では『陽の子供ならすぐにも』と思っていたりするそうだ。
これは、二人がパートナーになるにあたって光も交えて何度も何度も話し合った中で語ったことなんだよ。そして陽も、すぐに子供が欲しいとは思いつつも和の気持ちを無視してまで自分の考えを押し通そうとは願ってない。
『できないならできないで今を楽しみたい』
とも思ってるそうだ。
そしてそこまでのことを光に打ち明けられているというのが、陽と和と光の関係性を物語ってるよな。それほどのことを話せる相手なんだよ。陽と和にとって光は。
独立し自立したからといって、
『親とはなるべく関わりたくない』
とか思ってるわけじゃないし、だからといって、
『いつまででも親に甘えていたい』
だけでもない。二人にとって光は、
<最も信頼できる自分じゃない人間の一人>
なんだ。光が自分の子供達とそういう関係を築けるようにしてきたんだ。だからこそいろんなことが話せる。いろんなことを聞いてほしいと思える。
『あの人なら聞いてくれる』
そう思ってもらえてるんだよ。
まあ俺もちゃんと聞こうとは思ってるが、さすがに<母親>には勝てないな。




