陽編 遠い異国の奇妙な習慣や風習
陽と和が行ってくれてる<ホビットサンク村への物資輸送>も、形式としてはある種の<物々交換>に近いそれだ。こちらが届ける物資の代わりにホビットサンク村で収穫されたあれこれを受け取ってくるわけだからな。
これ自体はすでにロボットによる物流網が出来上がっているからわざわざ人間がそんなことをしなくても何も困らないもののそういう<仕組み>について形だけでも知っておいてほしいんだ。そのために行ってるものでもある。陽や和が生きてる間にそういうのが本格的に成立し始める可能性も考慮して。
平たく言えば<社会見学>とか<職業体験>に近いものか。<責任>までは負ってないからそれこそ。
そうだ。もし何かトラブルがあって用意した物資が駄目になっても陽や和に責任を問うつもりはない。代わりの物資の用意を手伝ってもらったりすることはあってもそのこと自体が<演習>だし。
『失敗した場合にはこういう形でリカバリするんだ』
ということだな。
<物的な損害>についてはいくらでも取り返しが利く。ここでの<大きな失敗>はそれこそ<命に関わる事態>だし。『命を失う』なんてことじゃなければどうにでもなるさ。
それでも、陽も和もいい加減な気持ちでは臨んでない。ちゃんと役目を果たそうと真面目に取り組んでくれてる。これはまあ、
『手を抜いて楽をして利益を得たいという発想がそもそもない』
からだというのが大きいだろうけどな。ここじゃ誰もそんなことをしてないから真似のしようもないんだ。
光莉号とコーネリアス号のライブラリ内のコンテンツもまあまあ見てたからその中で登場人物がそんな感じの振る舞いをしていたりというのは見ていたはずなんだが、それを現実のものとして認識できていないのかもしれない。
<遠い異国の奇妙な習慣や風習>
的な<現実味のないもの>とでも言うべきか。まあ、<遠い異国>どころか俺のルーツでもある地球の国にもかつて<ちょんまげ>なる髪型があったらしいが、実際に存在していたとはとても信じがたいというのが正直な印象だ。真似をしようとも思わない。
そんな感じかもな。
なにより、ここじゃ<手を抜いて楽をして得られるもの>というのがそもそもない。ロボットが生活に必要なものを作ってくれているのも安全を保障してくれているのも単に<そういう仕組み>でしかない。本質的には、
『自分の身は自分で守る』
が基本なんだ。ゆえにそこで楽をしようとしてたら命を落とすだけだしな。
<富>も<名声>も関係ないし。




