陽編 複雑怪奇な厄介事
陽や和達が朗らかでいられてるのは、ここがまだまだシンプルな世界だからというのもあるんだろう。常に<死の気配>は身近にありつつもそれさえ受け入れてしまえば他にそこまで厄介なあれこれがない。
まあ<地球人>にとっては、
『常に身近に死の気配があること自体が受け入れられない』
からこそ今の社会が築かれてきたわけだが。しかし、
『それを築くために行った様々な試行錯誤に伴い生じた諸々の齟齬を原因とする複雑怪奇な厄介事を生身の人間の側が理解し適応していかないといけなくなった』
のが結果として大きなストレスの原因となり、
<生き難さの正体の一つ>
になったんだろうなと感じるよ。だからこそ今の俺達の世界ではそこまでのストレスもないというのは事実なんだろう。もちろん<人間関係における様々な行き違い>がそもそも生じないように心掛けてるというのもあるにしてもだ。
ゆえに地球人社会では親にちゃんと認めてもらえて気遣ってもらえた者であっても社会についてはやっぱり<生き難さ>を感じてしまうことがあったりしたんだろうな。
だから決して<親の責任だけの問題>だとは言わないさ。そもそも親自身が人間社会から受ける過剰なストレスに曝されている状態なわけで、そんな中で子供まで受け止めようとなると大変なのは事実だし、『親だけが悪い』と言うつもりもない。あくまでも、
『親自身にできることをやらないのは違うだろ』
というだけの話だ。
その点、俺は<多数の齟齬を抱えた複雑怪奇な人間社会>の中で子供達と向き合ってきたわけじゃないから『多少は楽ができた』のは事実だと思う。地球人社会で同じように子供達と向き合おうとすれば今とは比べ物にならないストレスに曝されてただろうなというのは容易に想像がつく。
そもそも、
『複数のパートナーとの間に同時に子供をもうけてその全員を養育する』
なんてことを地球人社会で行おうとすると、<単純な経済的負担>以上に、
<周囲の人間の無理解>
が有形無形の<障害>になったであろうことは間違いない。ここじゃそんなものを向けてくる<周囲の人間>がいなかったから助かったのは事実ではある。
そして考えてみれば、
『自分以外の誰かが自分とは違う生き方をしている』
ことについて理解を示そうとしないのがいるのも、結局は複雑すぎる社会に適応するために価値観を絞ろうとするからそれ以外については『認めたくない』というのもあるのかもしれないなあ。
何しろ野生の生き物の世界でも<普通じゃない個体>は確かに疎外されたりするかもしれないが、それも目の前にいなきゃ気にもしないわけで。




