陽編 要するに信用されていない
陽と和と麗が乗ったローバーは、時速二十キロ弱で密林の中を進む。途中、何度もボクサー竜や猪竜をはじめとした獣が前を横切って、その度に陽は減速してくれた。ローバー自体がロボットであり様々なセンサーを備えていて、周囲の状況をフロントウインドウに表示してくれるから、獣が近付いていてもあらかじめ警告してくれるんだ。
今運転してるのは陽だが和も運転はできるし、二人ともちゃんと危険回避を心掛けてくれている。危険を冒してまで急がなきゃいけない理由がそもそもないから後は当人の意識次第だよな。まあ、危険運転なんかしようとしてもローバーを制御しているAIが『人間を守るために』それを制してくれるからできないんだが、そもそも二人とも穏やかな運転をするからAIに止めてもらう必要もないんだよ。
自動運転が一般的になる以前は、
『ルールを守って運転する側こそを邪魔だ危険だと疎んだ』
と聞くが、なるほどルールの方が実情に合ってなかったりしたこともあったのかもしれないが、実際にはただ本人に精神的余裕がなく気持ちが急いていた場合がほとんどだったんじゃないのか? もしくはただ自分が気持ちよく運転したいだけだったか。そういう人間が多かったからこそ、
『ルールを守って運転する奴の方が危険だ』
とか思っていたりしたんだろう? そうやって自分勝手な解釈を基に自動車を運転するのが大半だったから自動運転が導入されたんだろうな。要するに信用されていないわけだ。誰もがルールに則って運転していればそれが流れを乱すわけでもないから別に危険を増やしたりしないのに。
『ルールなんか律儀に守らなくても自分は事故なんか起こさない』
という思い上がりが許されなくなっただけだろう。事実、確実な自動運転が導入されてからは交通事故が大きく減ったとのこと。最初期の自動運転はAIの性能も十分じゃなかったことで自動運転が原因の事故も少なからずあったらしいが、自動運転が普及して数世紀が経った頃には<はっきりと自動運転が原因と断定できる事故>はなくなったそうだ。自動運転そのものじゃなくシステムトラブルで正常な動作をしなかったことが原因だったりそもそも原因自体が特定できなかった事故だけになったと。しかもその<システムトラブル>も人間の側がメンテナンスを怠ったり不正な改造を施そうとした結果なんだとか。
さらに技術が進歩するとシステムにトラブルが生じたらその時点で安全に停止させるようになったし、ましてや不正な改造を行おうなんてしたらAIが全システムをロック状態にして起動できなくなったんだよな。




