陽編 傲慢さを教える必要
とまあいつものごとく話が逸れつつ、陽と和と麗がローバーに乗り込んで、
「行ってきます」
と手を振りながら出発するのを見送った。そんな俺の視線の先で、ローバーがゆっくりと密林の中に入っていく。<舗装>まではしていないもののこれまでにも何度もローバーが通ったそこはすっかり<未舗装の道>のようになっていて、スピードさえ出さなければ通るのにそれほど苦労するようなものじゃなくなっていた。しかし動物達がいきなり飛び出してくることは頻繁にあるからその点も考慮して時速二十キロを制限速度としている。
それを陽も和もちゃんと守ってくれるんだ。ローバーの運転は二人ともできるが別に急ぐ必要があるものじゃないし、あまりスピードを出すとどうしても麗が怖がるのもあって『守るのが当たり前』って思ってくれてるんだよな。
『ルールに縛られない自分、カッコいい!』
なんて感覚も持ち合わせていないし。大人がそういう振る舞いをしていると子供も当然そう思うようになるだろう。その事実を認めない大人が、
『子供は口で言っても分からない』
とかホザくんだ。口で言ってもすぐに理解してもらえないのは事実ではあっても、大人がそもそもその<口で言ってること>を否定する振る舞いをしていれば子供も納得してくれなくて当たり前だろう。なにしろ子供は『大人の真似をする』生き物だ。大人の真似をすることで多くのことを学んでいく生き物だ。それをわきまえず口だけで言葉だけで言いくるめようとしても効果がでなくて当然だと俺は思う。
俺もシモーヌも光も陽や和の前で基本的にローバーをゆっくりと走らせることしかしなかったしな。まあ道が悪くて『できなかった』のも大きいが。
それでも運転している時は悠然と構えて焦ってる素振りも見せないようにしてきたのはある。だいたい、<緊急事態>の時にはロボットが現場で対応するわけで、人間があたふたする必要もない。日常においては急がなきゃいけない理由も今の時点ではない。<締め切り>も<期日>もないからなあ。
だから今回の<任務>も、ゆっくり行っても日暮れまでには帰ってこられるし、もし日暮れまでに帰ってこられなくても何も問題ないものだ。ただでさえここで暮らすほかの生き物達に『迷惑を掛けてる』わけだから無闇に危険に曝すのも傲慢が過ぎるというものだろう。
陽も和もそれを分かってくれている。俺達の真似をすることで。
いずれ人間社会が大きくなっていけばその辺りも難しくなってくるにしても、わざわざ傲慢さを教える必要もないさ。




