矛盾(生きることそのものが矛盾だもんな)
陸号機と駿のことについては、後はまあ、成り行きに任せるしかないと思う。
俺とシモーヌは情が移ってしまってるが、刃や伏、鷹らからするとただの<餌>だからもしかすると誰かに食べられてしまうという最期を迎える可能性もある。
実際、鷹に狙われたと思しき映像もあった。陸号機のカメラに鷹の姿が映っていて鋭い目で睨み付けてる様子が見られたんだ。
それだけじゃない。翔の縄張りに入った時には、翔にも同じように狙われていたようだ。まったく、油断も隙も無い。
だからその辺りは、駿自身が野生としての抜け目なさを発揮してくれることを祈ろう。
と言っても、今の時点でもなかなかに抜け目ないみたいだけどな。なにしろ、危険を察知するとすぐに陸号機のボディーの隙間に隠れてしまうんだから。
体が大きくなって隙間に入れなくなっても、たぶん、他の獣は陸号機には当分は近付かないだろうから、そのボディーに乗るだけでも安全だろうし。
しかも、光莉号のAIには、
「陸号機に懐いているボクサー竜の子供を守れ」
と指示もしてある。だから駿がうっかり陸号機から離れてしまって狙われた時にはスタン弾でそれを追い払ったりもした。
そんなことをしてると、『なるべく干渉しない』っていう俺自身のルールに反してしまうんだが、その辺はまあ、『ドーベルマンDK-aの運用データを得る為』ということで折り合いをつけることにしよう。
しみじみ、生きるってのは、『矛盾と共にある』ことだと思い知らされる。
なにしろ、『最終的には死ぬことが決まってて、それに向かって生きる』んだから、これがそもそも大きな矛盾だって感じるよ。
そうだ。矛盾そのものは別に<悪>でも<許されざるもの>でもない。自分が生きる為には他者の命を奪って食べる必要があるのもいわば矛盾だと思う。特に人間は、命の大切さを説きながら他の命を食してる。
牛や豚は食べるのに、猫や犬は『食べちゃダメだ』と言う。だがここじゃそんなこと、俺とシモーヌとメイトギア達以外には誰も考えない。何を食べて良くて、何はダメなのか、人間ほど面倒臭くは考えてない。食べられるものを食べられるときにただ食べる。だけなんだ。
だから『駿は食べちゃダメだ』とは言えないし、言ったところで聞いてくれないだろう。
矛盾も、それこそただそこにあるだけなんだよな。
その矛盾とどう向き合っていくかっていうことで、人間は頭を使わなきゃいけないんだろうって気がするよ。




