陽編 救いとしての死
終身刑を言い渡された受刑者が暮らす刑務所は、基本的に一般的な居住エリアから遠く離れた専用の地区に設けられるのが常だ。これは万が一脱走などがあっても逃げられないようにするためというのと同時に、居住エリア近くで作ろうとするとどうしても反対運動が起こるからというのも理由なんだと。
だからそれこそ居住用としては古くなって放棄されたスペースコロニーを刑務所として再利用している例もあるという。
<刑務所>そのものが、機能としては小規模ではありつつ人間が暮らすコロニーとして十分なそれだそうだ。ただしそこにいる人間は、<受刑者>と<管理者としての刑務官>だけとのこと。しかもその刑務官も常駐してるわけじゃなく、シフト制で数日から一週間程度で交代すると聞いた。
これは、刑務官のメンタルに配慮すると共に、<刑務官と受刑者の関係性>についても考慮したものらしい。どうしても受刑者に対して支配的な意識を持ってしまう傾向があるからそういう感覚に刑務官自身が支配されてしまわないようにリフレッシュを行うわけだ。
しかも受刑者と直接接触するのは専用のメイトギアをはじめとしたロボットで、生身の人間である以上は避けられない諸々の<欲求>についてもロボットが対処する。ありていに言えば<性欲>とかな。そのための<専用のメイトギア>なんだそうだ。
しかし、終身刑が確定した受刑者は生きている限り人間社会に戻ることはできない。死ぬまで<人間のように振る舞うロボット>の中で過ごすんだ。はっきり言って人間社会においては『死んだ』も同然だな。誰にも干渉できないんだからな。まあ、画面越しの<面会>はできたりするが。
とはいえこれも、エレクシア達がそうしているように<当人を正確に再現したアバター>を用いた通信だって普通に使われてるから、その画面の向こうにいるのが本当に本人なのかそれともVRなのか、確認しようもないが。もちろんそんなことはしちゃいけないってことにはなってるものの、素人には見わけもつかないしなあ。
だから受刑者の中には、
『自分はもうすでに死んでいてここにいる自分はロボットなんじゃないか? ロボットを使って生きてるように見せかけてるだけなんじゃないか?』
と疑う者もいるそうだ。無論そんなわけはなくてちゃんと本人が生きてるんだが、これまた当人には確認しようがない。そうして精神を病んで自殺を試みる者も少なくないとも聞いた。
もっとも、そんな形で死なせてはもらえないけどな。そういう奴が求めるのは、
<救いとしての死>
であるがゆえに。




