陽編 加虐嗜好の受け皿
地球人社会には大小様々な齟齬があり、それが生む軋轢のしわ寄せが必ずと言っていいほどに生じる。かつては<立場が弱い者>がそれを被る形になっていた。
『意図的に立場が弱い者を作りそれに押し付けることで秩序を保っていた』
とも聞く。いわゆる<奴隷>などはまさしくその典型だっただろう。労働力などを搾取するだけでなく社会の中で生じる諸々の不平不満の捌け口としても利用されていたらしいな。
なるほどそれはある程度の効果もあったらしいのは事実であるものの、虐げられる側にはひたすら鬱憤が溜まり結果として爆発することもあったそうじゃないか。
<制度としての奴隷>は解消されても事実上の<奴隷同然の存在>はその後も残り続け、<富める者>を生み出す一方で、追い詰められ破れかぶれの振る舞いに出る者も出し、<社会のリスク>として問題になっていたとも聞く。
ロボットの進歩はそういう問題の緩和にも大変に貢献することになった。<社会の齟齬のしわ寄せ>をロボットが受け止めてくれることで<虐げられる者>が大幅に減ったんだ。これにより<精神的に追い詰められる者>も確実に減り、リスクも減った。
地球人社会においては『社会が築かれていく』中でそれを主導した個々人の思惑があまりに強すぎて制度設計に無理があり、しかしそれが実際の制度として運用され定着してしまったことで既得権益が出来上がり、修正するのも容易じゃない状態が長く続いた。さらにそれぞれのコミュニティ自体も個別の制度で成立していたことで<ズレ>があり、そのズレをなんとか吸収しようとしてまた無理のある制度が出来上がっていくを繰り返してきたがゆえにそれこそ合理性に欠いた複雑怪奇なものになってしまっているわけだ。
もちろんそこについても長い時間をかけて手直しは行われているもののそれぞれの思惑とも相まって非常に面倒な状態らしい。
だからこそそのしわ寄せは一筋縄ではいかないものとなり、<理性>や<道徳>だけでは片付けらないと。一言で言えば、
<理不尽>
に尽きる。感情ばかりが昂ってしまい道理が成り立たなくなるんだ。まさしく<鬱憤>だな。その鬱憤を緩和するにも道理が機能しない形にならざるを得ないのも事実。そんな地球人の理不尽を受け止めてるのがメイトギアをはじめとしたロボットなんだよな。
いや、まさしく<それ用>として<ラブドールと呼ばれるロボット>もいるのか。その名が示す<性的な目的のためのロボット>としてだけでなく、
<加虐嗜好の受け皿>
としての意味もあると言われている。




