陽編 想ってないのと同じ
だから、走が亡くなった時には落ち込んでいたし、これまでも走と凱の仲間達が亡くなった時には少し気持ちが沈んだ様子を見せていたそうだ。あくまで自分の<家族>を蔑ろにするようなことはなかったというだけで。特に子供達の前では狼狽えたりもしていない。走の時も気丈に振る舞ってくれていた。立派な<母親>だと思う。
俺も『見習わなくちゃな』と思わされたものだ。そしてそれは旋が亡くなった今回も同じ。ただ、
「凱、つらいでしょうね……」
と、俺やシモーヌや光の前では本音も見せてくれる。<言葉>以上に<表情>で。
旋のこともそうだが、それ以上に旋を亡くしたことで凱が気落ちしているかもしれないと案じてくれているんだ。実際、凱は旋の遺体に寄り添ったまま寝ているしな。音の時もずっと遺体に寄り添っていた。
それでも、時間が経てば事実を受け入れて音を弔うためにアンデルセンがその遺体を回収しようとしても抵抗したりもしなかった。アンデルセンなら音を大切に扱ってくれるのも分かっていたんだろう。だからこそ任せてくれた。だがそれは、現実を受け入れられたからこそのものだと思う。受け入れられなければ音の遺体を守ろうとしていただろうしな。
だから、気弱で優柔不断そうに見えていた凱も、決めるところはちゃんと決めていたんだ。だから走と共にとはいえボスの役目を勤め上げ、しかも穏当にボスの座を受け渡すことができたんだ。そうじゃなかったら奪い取られていただろう。普通のレオンのように。
それが本来なら<当たり前>ではあるものの、正直、血の繋がった父親としてはあまりそんなことになってほしくない。その俺の願いが聞き届けられたわけじゃないにしても、考え得る限りで最も好ましい形でやってこれたんだ。これは凱自身の力だと思う。
旋を喪ってつらいのは事実でも、それを受け止められるのも彼だと俺は思うんだ。その前提の上で、
「凱を気遣ってくれてありがとう」
ビアンカへの感謝の気持ちを言葉にする。
これが俺達の<在り方>だ。ちゃんと感謝をしてそれをただ気持ちだけでとどめておくんじゃなくて言葉にして伝える。<伝えようとしないから伝わらない想い>は、想ってないのと同じだ。子供達にもそれを分かってもらうためにはっきりと振る舞いとして示す。それをせずに都合よく伝わってくれるなんて期待する方がどうかしてる。
そこも地球人の<悪い癖>だ。<ロマン>だのなんだのという耳に心地好い言葉で脚色して現実をみようとしない、な。




