陽編 思い入れ
俺達に比べれば旋の生涯はいかにも短く感じるだろう。だが俺はそれを<不幸>だとは感じない。もちろん旋自身は死にたくはなかっただろうし、凱は悲しんでいたし、俺達だって好ましいことだとは思ってない。思ってないが、彼女はちゃんと自らの命を生き切った印象があるんだよ。
しかもそれだけ長生きしながらも焔や彩のような明らかな<認知症>を患っていた様子もなかったし。かつての猛々しさや激しさはすっかり鳴りを潜め呆けているようにも見える様子はあったりもしたものの焔や彩のそれとは明らかに違っていたと思う。
それがいかなる理由によるものかはさすがに推測するしかできないものの、焔や彩の生活は『平穏すぎた』のかもしれないな。
ただこういうのも<個人差><個体差>が大きいだろうから、なんとも。ヘビースモーカーでありながら二十一世紀頃の医療技術の下で百年以上生きたという実例もあるらしいな。現在の医療技術であれば喫煙によるダメージも随時リセットできるから影響は小さいとしても、それができなかった頃でというのは、かなり特異な例だったんだろう。
なにしろ同じ条件であってもガンなどの病気で早世した者も多いとのことだし。体質的に耐性が高かったのかもしれないな。
だから旋がレオンとしては異例なほど長寿だったのも、彼女自身の資質によるものだった気がする。
その辺りはレックスとシオが彼女の細胞片から得た情報で検証してくれる。もっと詳細に調べるには竜生の時のように彼女の遺体そのものが必要になるが、さすがにそこまでしようとは思わない。俺が依頼すればレックスもシオも<専門家>として淡々とそれを行ってくれるにしても、俺達の方がそこまで割り切れない。特にビアンカが。
ビアンカは俺達の中でも最も走や凱達に対して思い入れが強かったからな。<オリジナルのビアンカ・ラッセ>がネコ好きだったのを受け継いだ彼女も大のネコ好きで、ネコ科の獣を連想させるレオンは見事に刺さったらしい。だからこそ、草原で疫病によるパンデミックが発生し草食獣の数が激減した時にたまたま被害が軽く獲物となる草食獣が残っていたこの近辺に集まってきた他のレオンやオオカミ竜から走や凱達を守るために単独で一ヶ月も哨戒を行うくらいには入れ込んでしまっていた。
まあ、さすがに久利生との間に娘の黎明が生まれ、<自分の子>ではないとはいえ<久利生の子>には違いない未来や蒼穹、さらには自家受精で授かったケインとイザベラとキャサリンのみならず、元は野生のレオンでありながら自分に懐いた素戔嗚の<子育て>に忙しいのもあって以前ほどではなくなっても、今でも好きなんだよな。あの群れのレオン達のことが。




