陽編 お疲れさま、旋
凱と番うことになった頃の旋も人生も、なかなかに波乱万丈だっただろうな。走や凱がボスになる以前のボスのパートナーだった彼女は、最初は走や凱のことを認めようとせず、同じように前のボスのパートナーだった雌と一緒に二人に突っかかっていったりもした。オオカミ竜の襲撃でパートナーだったボスを喪ったのも影響していたのかもしれない。
が、そんな彼女達を走と凱は力を合わせて退けてみせた。これにより二人の力を認めて、ボスとして受け入れた形だな。雌にとっては『ボスが強いかどうか』はそれこそ自分達の生き方にまで関わる大きな問題だ。だから<弱い雄>なんかを仲間に迎えるわけにはいかなかったんだろうさ。だから俺も、
『自分の子供達がイジメられてる』
的に騒ぐ気にはなれなかった。もちろん心配だったし不快だったが、<地球人社会におけるイジメ>とは根本的に意味が違うからな。レオンにとってはそれこそ『生きるか死ぬか』にまで直結する話である以上、無責任な立場からとやかく言うことはできないってもんだ。
それに、走と凱がボスとしての器と力を示した途端に『手の平を返して』二人のパートナーに収まったりしたし、強かだよ。
そして今日まで凱の一番のパートナーでいてくれた。結果的に凱をずっと支えてくれたんだ。凱の父親として感謝したい。
まあ、凱よりも先に逝って彼を悲しませた点については思うところもないわけじゃないにせよ、年齢を考えれば仕方ない。これ以上は無理ってもんだろう。だから、
「ありがとうな。お疲れさま、旋」
素直にそう悼むことができた。凱の方も、泣き疲れたかのように眠ってしまった。一応、はっきりと弱ってきてはいるものの心臓はちゃんと鼓動を刻んでるのは確認できている。もう長くはないにせよ、今この時点で『旋の後を追うように』という心配はなさそうだ。
とはいえ、すべてのパートナーを喪った彼に<生きる気力>が残っているかと言われれば、心許ない。だから改めて覚悟しなきゃいけないと思う。
「凱……」
シモーヌも悲しそうにタブレットの画面の中の彼を見つめる。顕現したばかりの頃にはまだ幼かった走と凱とも交流があったから、彼女にとっても<子供>とまでは言わなくても<親戚の子>くらいには情を抱いていた存在だった。走と凱が巣立つきっかけにも関係しているし、そういう意味では特別な相手でもあるだろうな。
だから彼女としても<覚悟>を持たないといけないか。
<命の現実>を受け止めるために。




