陽編 戦おうとすること自体が不毛
いずれにせよ、今の地球人社会製AIは決して人間を傷付けることはない。そして人間を『守る』んだ。<暴力>からも、<社会的>にも。
強盗や通り魔に襲われそうになればAIによって制御されたロボットはまさしく身を挺して守ってくれるし、主人が法を犯し社会的に大きな不利益を被るとなれば『法を犯させない』ことで守ってくれる。
理不尽な<侵害行為>を受けた<被害者>がそれゆえに<加害者>に転じるのを未然に防ぐために献身的に動いてくれる。<被害>そのものを出さないように尽力してくれる。
自身を傷付けられたり大切な者を害されれば人間は<復讐>を願わずにはいられなくなるが、『復讐を肯定する』のは『テロを肯定する』のと同じなんだ。かつて地球で頻発していたテロの多くは結局のところ<復讐>がその根幹にあった事例が多かったそうじゃないか。
また、現在の地球人社会における<テロ>の多くは、自分達の主義主張を力尽くで押し通そうとするものや、<地球人という種>を<悪辣なもの>と見做した上での<義憤>を基にしたものがほとんどで、実は<復讐>が目的のそれは極めて限定的になってるとのこと。
AIが人間同士の軋轢の間に入って緩衝材の役割を担ってくれることで、
<力ある者による一方的な簒奪とそれに付随する暴力>
が幅を利かせられなくなったからな。『大国に一方的に虐げられた』なんてのももう大昔の話だ。
地球での<恨み>を今なお引きずって何かと諍いを起こそうとしている者達もいるらしいが、彼らの<祖先(?)>はともかく当人達は実際に被害を被ってはいないからかつての<怨念>も形骸化してるというのはあるのかもしれない。
それもこれも皆、AIが人間のいいなりにならなかったおかげだと思う。今となっては武力でAIを制圧しようにももう向こうの方が強いし。人間が立てられる程度の作戦はAIにも立てられるし、人間が使える武器は刀剣類をはじめとした本当に原始的なもの以外はすべてAIが制御してるし使えるし。
<攻城兵器>で挑んでみるか? 相手は電磁加速質量砲を並べて迎え撃ってくるかもしれないが。
今じゃ携帯式のミサイルすら並の人間より頭が良くて、<投石器>で放たれた石をちゃんとそれと認識し軌道計算までして自ら迎撃してくれるそうだ。
これでどう勝つって?
しかも何度も言うようにAIは人間を殺さない。徹底した<不殺>で<専守防衛>を貫くだろう。自分達に損害が出たところでそれを<被害>とさえ捉えないんだよな。<痛み>を与えることさえできないと。
もう戦おうとすること自体が不毛すぎる。




