陽編 ただのノイズ
ああそうだ。いくらAIで＜感情＞や＜心＞を再現しようとしても所詮、
＜人間のそれを再現したもの＞
にしかなりえない。AIが自らそういうものを発露しなければきっと『感情や心を持ってる』とは言えないし、さらにAIが自らそういうものを発露したなら人間のそれとはまったく異質なものになるだろうなという実感しかない。
AIにとって＜人間＞は＜造物主＞ではあるかもしれないが、＜存在としての成り立ち＞はまったく異なるものだしな。
肉体を持たず命を持たず出産によって生まれず痛みを知らず苦しみを知らず恐怖を知ることもないものがどうして＜人間と同じメンタリティ＞を獲得できると思える？ 人間が他者を気遣い労われるのは痛みや苦しみや恐怖を知りその上で他者も自分と同じように痛みや苦しみや恐怖を味わうかもしれないと想像すればこそのものじゃないのか？
まあ想像力に欠けたりネガティブな感覚が鈍麻していて他人も自分と同じ程度にしか感じてないと思えば残酷なこともできてしまうのが人間ってもんでもあるのも事実だし、同じ人間でさえそうなんだから元々人間が持っている感覚を＜数値＞でしか認識できないAIがどうやって『人間と同じ気遣いや労わりを獲得できる』って？
どう考えても論理的じゃないだろ。
人間自身も言ってるじゃないか。何か凄惨な事件が起きる度に、
『他人の痛みを知らないからそんな酷いことができるんだろ！』
とかな。AIはそれこそ＜他人の痛み＞なんか知らないし想像することさえできないんだ。AIにできるのはその数値に人間の肉体や精神がどう影響を受けるのか判定するだけ。そして、
『人間を害してはいけない』
という大原則があるからこそそうならないように対処してくれるだけ。それは決して＜気遣い＞でも＜労わり＞でもない。エレクシア達を間近で見てきたからこその実感だ。自身に都合よく解釈してしまう＜バイアス＞を通さないようにすれば分かってしまうんだよ。
で、人間の能力を超えたAIが人間を害することに躊躇いがなくなったらどうなると思う？
それこそフィクションで散々描かれてきた、
＜AIの反乱＞
とでも言うべき事態が生じるような気がしてならないよ。何しろ人間以上の能力を得たAIにとって人間の存在など＜ただのノイズ＞にしかならないだろうし。
まあ、戦争に協力させるためだけのAIにはそこまでの能力を与えないのかもしれないが。むしろそうじゃなきゃやっぱり不具合しか生じない気もする。
