陽編 罪の意識
だから現在の地球人社会において<人口爆発>は起こり得ないとされている。
一部の植民惑星のさらに一部地域でそういうことが起こる可能性自体はないわけじゃないにしても、それが地球人社会全体にまで広まることはおそらくないんだ。
その必要がそもそもないからな。
かつての地球で人口爆発の中心になっていた地域では劣悪な環境と社会情勢もあって乳幼児の死亡率が高く、たくさんの子供を作ることで子孫を残そうとしたそうだが、しかしその一方で進んだ医療技術が完全な形ではなくても流入してきて乳幼児の死亡率は下がったにも拘らずそれまでと同じく子供をたくさん作ろうとしたから爆発的に人口が増えた時期があったんだとか。
だが社会基盤が整備され(それまでに比べれば)安定し、その状態が当たり前になってくるとたくさん子供を作る必要がなくなる(子供が死なないから育てる人数がさらに増えて負担が増す)ことで自然と<少子化>に傾いていくと。
根強い身分制度が残り『身分が上の者は身分が下の者に対して何をしても許される』的な因習が蔓延していた地域でも、他の地域との交流が進むにつれて異なる価値観に曝され影響を受けた上にAIの進歩により、
<他者に危害を加えることを前提とした発想>
はAIの協力が得られずに窮したためにやむなく改めていく形になったという話だ。
が、実を言うと、
『AIにそういうアルゴリズムを取り入れたのはその種の因習に悩まされどうにかして改めていきたいと強く願った当該地域出身の技術者達だったらしい』
というのも、ある種の都市伝説じみた噂話ではありつつ語られてはいるんだよ。実際の技術者達もその地域の出身者は確かに多かったらしいし。
それが事実かどうかは俺には分からないが、<他者に危害を加えることを前提とした発想>に盲従するようなAIじゃなくしてくれたのは本当にありがたいと素直に思えるんだ。
もし主人の命令ならば人間を傷付け殺すことも厭わないようなAIが当たり前になっていたら、それこそ地球人は自らを滅ぼしていたかもしれないとゾッとする。フィクションの中ではなんだかんだと人間同士の諍いは収束していくのが<お約束>になっていたが、人間を害することに躊躇いのないAIが力を貸していたらそんなものじゃ済まないような気がして仕方ない。
俺が制限を掛けない限り<外敵>に対して一切の容赦をしないエレクシア達の様子を見ればこそ、その実感しかないんだよ。
AIには<罪の意識>もないしな。




