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陽編 理不尽で暴君のような存在

今日は萌花(ほのか)の誕生日。彼女もこれで満十歳だ。しかしその見た目はもうすっかり<大人の女性>ではある。それこそ二十歳を少し過ぎたくらいの。


だからある程度は落ち着いてきた印象もありつつ、けれど錬慈(れんじ)の相手をする時には<まだ十歳くらいの子供>なんだなと感じたりもするんだ。


(ひなた)(まどか)が今日のパトロールの準備として装備の確認をしている傍らで、


錬慈(れんじ)、こっちこっち♡」


と、今年八歳で現時点では満七歳の錬慈(れんじ)と楽しそうに遊んでいる彼女の姿があった。見た目には、


<若い叔母と甥っ子>


って感じかもな。


萌花(ほのか)ねえちゃん!」


錬慈(れんじ)萌花(ほのか)を実の姉のように思っているらしく、とても懐いている。


地球人社会において<弟にとっての姉>というのは、


<理不尽で暴君のような存在>


的に言われたりすることもあるものの、(ひなた)にとっての(まどか)も、錬慈(れんじ)にとっての萌花(ほのか)も、そんな様子はまるでなかったな。そもそも、


『自分より明らかに弱い相手に高圧的に接する』


というのは<ストレス転嫁>という意味が大きいことも分かっている。野生の生き物の場合にはそれこそ毎日が『生きるか死ぬか』だから、そういう振る舞いをしてもおかしくないんだろうさ。だが、<社会>を築きその中で守られることで生きている地球人の場合は、<生きるか死ぬかというストレス>自体は決して身近なものじゃないはずだ。にも拘らず姉(だけじゃなく兄もだろうが)が<理不尽で暴君のような存在>だと揶揄されるくらいの振る舞いをしてしまうのは、結局のところ、


『そうせずにいられないほどのストレスを抱えている』


ということだと、自分が親だからこそ実感があるよ。なにしろ俺達の間では、


『先に生まれた者が後から生まれた者を虐げる』


なんてことはほとんど見られないからな。(ほまれ)(かい)の群れではそういうこともないわけじゃないが、これは当然、<生きるか死ぬかが身近な野生の世界>で生きてるからであって、<人間社会>とは根本的に違う。それを人間社会に当てはめることは決して適切じゃない。


だから、<必要のない理不尽なストレス>がかからないように心掛けてる俺達の間では、


<自分より弱い相手を利用して転嫁しなきゃいけないほどのストレス>


がそもそもないんだ。


『お姉ちゃん(お兄ちゃん)なんだから!』


とか言わないしな。子供の世話をするのはあくまで親をはじめとした<大人の役目>であって子供に背負わせるものじゃない。それは親(大人)の側の<怠慢>でしかないと俺は思ってるよ。



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