陽編 専門家
でも今はとにかく、
「音、お疲れさま。今まで凱を支えてくれてありがとう」
ただただそういうことだな。
凱が遠吠えを上げるのをやめてから音の遺体をアンデルセンが回収してくれて、墓地への埋葬まで行ってくれた。最近はこの辺りは完全にアンデルセンの役目になっている。アンデルセン自身が積極的に応じてくれるからだな。加えてアンデルセンはシオとレックスの<助手>でもあるから、
<生き物に関する諸々のノウハウ>
を順調に蓄積してくれていってるのもある。まあロボットだからその辺はすぐに他の機体もデータの同期によってアップデートできていくんだが、なんとなくアンデルセンが<専門家>のようになってきてる気がするんだよ。やっぱり日常的にそれを行ってる者に任せたいと感じてしまうのは人間ならではか。
データの同期という形で他人とノウハウの共有ができない人間の感覚だと、ロボットのそれは実感として掴みにくいし、ついつい分かりやすい方に意識が向いてしまうわけだ。
で、無意識のうちに偏ってしまうと。
別にそれですぐに問題があるわけでもないからそのこと自体はいいんだが、そういう傾向があるというのは自覚していないと際限なく偏っていってしまうことにもなりかねないから注意が必要だよな。最初は些細なものでも積み重なると大きな誤謬となって実害が生じるし。
俺達もそこは気を付けないといけないと思ってる。
でもまあ、
『アンデルセンは生き物の専門家だ』
的な認識程度なら大丈夫か。実際、シオやレックスの助手として日常的に運用されてるわけで。
『誰か一人にスキルが偏ってしまうと困る』
というのは人間の<組織>においてありがちな話ではあるものの、データを簡単に同期できるロボットの場合は関係ないしな。
『専門家に任せておけば安心だ』
的な心理が働いてしまったりするのも人間だからその辺りを考慮して敢えて特定のロボットに任せてしまうという運用の仕方が有り得るのもまた事実。
<〇〇仕様のメイトギア>
なんてのが存在するのもそういうのがあってのことだろうな。もちろん<専用装備>なんかをすべてのロボットに備えるわけにはいかないものの、別に他の形で運用されていたメイトギアでもデータをアップデートするだけで<専用機>として運用することはよく行われてるわけで。
まあ、一般仕様のメイトギアと警護仕様や軍用のメイトギアについてはそもそも要求される機体性能が違うからそもそも互換性のない専用設計だったりするが。




