陽編 旋
そうして陽達が帰ってくる途中で、新たな<訃報>が届いた。音が亡くなったんだ。
当然、その事実に凱はまた悲し気に遠吠えを上げていたが、その遠吠え自体、もう朗の群れにさえかろうじて届く程度のか細いものでしかなかった。かつての力強さは見る影もない。『老いる』というのはこういうことなんだと改めて思い知らされるな。
俺も、老化抑制処置が実用化される以前の地球人で言えば四十代半ばくらいの体になっていて、ここに不時着した当時に比べると明らかに自分が衰えてきているのを感じる。
それでもまあ、今の凱の衰えとは比べ物にならないか。
そして凱のパートナーはついに旋だけになってしまった。これは、語弊を恐れずに言わせてもらえばかなり意外な結果だった。なにしろ旋は凱よりもそれなりに年上の<姉さん女房>だ。最初の群れの時点でも全体の中でも歳は上の方の雌だった。それどころか当時の雌のリーダー的存在だったしな。しかも気が強く攻撃的で狩りに出れば真っ先に獲物に襲い掛かるくらいだった。だから俺自身の勝手な印象として、
『長生きはできないタイプだろうな』
と思っていた。それがこれだもんな。個人の勝手な推測なんていかに当てにならないかの証拠だろう。
ただ、ある時期を境にして旋の激しい気性が鳴りを潜めていったのはあったように感じる。それは、同じく凱のパートナーである阪が亡くなった頃だったか。
最初は気のせいかとも思ったが、今こうして思い返してみるとやはりその頃の前と後では旋の印象がかなり違ってるんだ。もしかすると旋にとっても阪の存在は大きかったのかもしれないな。母のような姉のような存在だったのかもしれない。
その旋も今では凱と同じくすっかり<日がな一日のんびりと日向ぼっこをしているお婆ちゃん>だった。狩りに出ることもなく、凱と共に子供達にじゃれつかれるままになってるんだ。
だからこそ、旋が亡くなったらそれこそ凱の生きる気力も失われる気がしてしまう。
が、もう二人ともレオンとしては十分以上に生きたはずだ。特に旋は凱よりも年上な時点で記録的な長寿を達成してるはずなんだ。こういう形での長生きがレオンにとって幸せかどうかは、俺には分からない。二人の様子を見る限りでは<不幸>とまでは言えないにしても、それはあくまで凱や旋が特殊な状態にあるからというのが前提になってるだろうな。そうじゃなきゃ、他のレオンの群れやオオカミ竜の群れの襲撃などによりとっくに命を落としてるだろうし。




