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陽編 人柱

<人柱>


かつて地球でも、地域に関係なく似たような風習はあったと聞く。<生贄>の一種と考えればそれこそどこにでもあったことらしい。しかも地域によっては生贄にされること自体が名誉であり、当人も望んで生贄になったなんて話も。


俺にはまったく理解できない話だが、極めて閉鎖的な社会で限定的な情報の中のみで偏った教育が行われればそんなことも有り得るのか。ネットが発達した社会じゃもはや不可能なやり方だな。


ましてや単なる<オカルト>としてのそれを肯定的に捉えるなんてのは、完全に<洗脳>なしじゃ無理だろうさ。


ただ、現実問題として、


『誰かがやらなきゃいけないがそれを引き受けた者は命を落とす』


なんて状況自体は起こり得ないとは言えないし、あったんだろう。


『手動でしか隔壁は閉じられないが、それは閉ざされることになる隔壁の向こうのものでしか操作できない』


というシチュエーションはフィクションでは定番だな。


『自動での制御が損なわれ、隔壁の手前側と向こう側にある手動用のそれもたまたま手前側のがダメになる』


なんて物語の展開上都合のいい事態に陥るのが最高に、


<フィクションの嘘>


だと思うが、まあ実際にそんなことがあるとして、そこで誰かを犠牲にするという事態が生じないようにするのが<今の人間社会>というものだ。強力な放射線に対する高度なシールドを備えた今のロボットなら、人間が即死するほどの放射線下でも、かなりの時間稼働を続けることができるしな。だから隔壁を閉じるために残って安全になって隔壁を開けたら待機状態だったロボットを回収することだってできなくはないし、そもそもロボット自体が<装置の一部>と考えればそのままにしておいても何の問題もないわけで。


そう言えば、恐ろしい風土病により完全閉鎖された<惑星リヴィアターネ>で活動しているロボット達も、もう二度とリヴィアターネからは出られないんだったな。それも同じか。


俺が最後に耳にした噂だと、リヴィアターネの完全封鎖を確実に維持するための手段として、封鎖用の設備を強化するのに必要な物資を衛星軌道上に上げるための<軌道エレベーター>の建設が始まってたとかなんとか。


実に皮肉な話だが、


『封鎖するためにリヴィアターネ自体を開発する』


ってのが行われていたんだと。それをするのがロボットの役目だ。


そういうロボットをちゃんと使いこなしてもらうのも、(ひなた)(まどか)の役目になってくる。ここでロボットに入れ込み過ぎて、


『ロボットを守るために人間を犠牲にする』


なんて本末転倒が起こってもらっちゃ困るしな。



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