陽編 気分次第を編集
そうして意図せず彗の姿も確認できて、陽と和は、
「じゃあそろそろ」
「帰ろうか」
声を合わせて麗に手を差し伸べた。陽と和は地上を、麗は樹上を移動して家のある方向へと移動を始める。陽と和は完全に地球人そのものの姿をしてるから、靴を履いているのもあってどちらかと言えば地上の方が歩きやすく、対して生粋のパパニアンである麗は樹上の方が移動しやすかった。少しでも陽の傍にいたがるから敢えて地上を歩くこともあるが、こういう形を取る場合も多い。そこは彼女の『気分次第』といったところか。
陽も和もその辺は承知してて『自分達に合わせろ』とは言わないし、麗も二人に対して『こっちを通って』的な様子を見せることもないんだ。ちゃんとそれぞれの違いを感覚的に承知してるんだと思う。それに無理に自分に合わせてもらわなくても二人がしっかりと愛してくれてるのを実感できてるというのもあるのかもな。
もちろん具体的に麗から言葉でそう確認を取ったわけじゃないにせよ、野生の獣に近い麗は人間のような<腹芸>は得意じゃないしな。気持ちってのはモロに表に出てくる。あとは俺達人間側がそれをしっかりと酌めるかどうかだけだ。これは野生の生き物と付き合っていく上で大事なことだよ。人間の側の勝手な思い込みで判断してると大変な事故を招くこともあるし、実際にそういう事故は歴史上何度も起こってきてるだろう。
『野生のヒグマが獲物に対して強い執着を見せることを知らずに余計な真似をして、<ヒグマの価値観>を知らずに必要以上に踏み込んで、とんでもないことになった』
なんて話はその典型だと思う。
まあ、<クマに遭遇した時の対処法>なんかについては、
『死んだふりをするのは間違い』
『決して騒がず慌てず視線を逸らさずゆっくりと後ずさって距離を取る』
辺りの話も実は<完璧な正解>はないそうだ。あくまで<その時のクマの気分次第>という面がとにかく大きいんだとか。だから正解は、
『そもそもクマに遭遇しないようにする』
のが一番で、他はすべて<一か八かの次善の策>なんだと。
俺もそう思うよ。刃と初めて遭遇した時にも『死んだ』と思ったしな。とはいえ俺の場合はエレクシアがついていてくれたから無事に生還できたし、結果としてエレクシアのおかげで刃に認められて懐かれもした。
<こんなとんでもなく強い雌を従えてる雄>
ということで。
この辺りも<マンティアンの価値観>が判明すればこそ分かったことだ。
ただし、同じことをするつもりはないしさせるつもりもない。あれはあくまで『たまたま上手くいった』だけなんだ。




