閑話休題 好々爺
焔と彩が亡くなったことで<錬是の子>は、光、灯、錬慈、凱、彗を残すだけとなった。
以前にも触れたとおり光と灯と錬慈は、錬是よりも長く生きることがほぼ確実なため、彼が生涯を見届けることになるのはおそらく凱と彗だろう。その凱も、レオンの雄としては異例と言っていいほどに長く生きたが、いよいよ最後の時が迫っているのは察せられた。
焔や彩のように明確な<認知症>の症状は見られないものの、日がな一日ぼんやりとした様子で、群れの子供達がじゃれつくのに任せるままになっていた。その彼の頭の中ではこれまでの記憶がずっと映画上映のように流れ続けているのかもしれない。
もちろんそれを確かめる術はないものの、彼はレオンとしてはやはり異例と言っていいほどに知能も高かったため、あながち有り得ない話ではないのだろう。そう思わせるくらいには彼の表情は穏やかだった。表情だけを見ていれば、血なまぐさい日常を過ごしているはずのレオンとは思えないくらいに。それこそ地球人社会でのんびりと余生を過ごす<好々爺>にさえ感じられるだろうか。
体は大きく力も強いがどうにも気が小さいところがあって走と一緒でなければ狩りでさえ怖気付いてしまうところがあった彼だが、それは結局、本質的には変わらなかったが、とはいえ重ねてきた<経験>はそれなりに<力>となっていて、若かった頃に比べれば動揺することも確かに減っていたようだ。
そもそも野生動物というものは、どんなに凶暴と思われている猛獣であっても一部の例外を除いて元来は<臆病>であり、予想外の出来事に遭遇すると飛び上がって逃げたりすることもあるものだ。だから凱が怯えた様子を見せることはあっても、仲間を見捨てて逃げることはなかったことで、ボスとしての威厳までは失われなかったのだろう。
もっともそれは、仲間達が厳しく彼に対して突き上げたりしなかったのもあってのことかもしれないが。彼にとって<気を許している相手からの攻撃>はきっと外敵と対峙すること以上のストレスになったであろうから。
その辺りは走の方が耐性が高かったと思われる。しかし『仲間達から好かれる』のは、どちらかといえば凱だったようだ。そんな走と凱が二人でボスの役目を果たしていたからこそこの群れは穏当に維持されていたのだと思われる。
今、凱が穏やかに過ごせているのもきっと彼だったからこそに違いない。彼がずっと積み上げてきたものが形となって現れているのだろうか。




