閑話休題 凱
凱は、錬是と伏の子であり、レオンである。
かつては一緒に生まれた兄である走と共にレオンとしての群れを率いていたが、老いて衰えた今ではボスの座を譲って日がな一日、群れの子供達と遊んでいると言うか、『遊ばれている』状態だった。
ちなみに現在の群れのボスは、<阿嵐>である。走と恵の娘である<讃>の息子の。つまり<走の孫>だ。現時点で群れに残っている者の中では最も<ボスとしての適性>が高かったことでそうなった。
走や凱の息子や孫には他に<ボスとしての適性>を持つ者ももちろんいたが、群れを出て他の群れに合流しそこでボスを務めている。
事実上、ほとんどの者が『野生に帰った』状態で、もはや<錬是の孫や曾孫>としての交流はない。錬是としてもそれを少し寂しくも感じつつ、『そういうもの』として受け入れていた。それができなければこの世界で精神の安定を保つことはそもそも難しいだろう。<地球人の常識や感性>などまるで通用しないこの世界では。
その一方で、現在のボスである阿嵐は、走と凱の妹でありコーネリアス号を挟んですぐ隣に縄張りを持つ凛の群れを引き継いだ朗とも基本的には良好な関係を保ち、穏当に互いの群れを維持できていた。その意味でも、この<特殊なレオンの群れ>のボスには相応しかったのだろう。
そんな中で、凱の二人目のパートナーであった<音>が命の幕を閉じた。音は、レオンとしてはかなり<変わり者>と言ってもいい気質を持つ個体で、群れの中ではある意味<浮いた存在>だったが、凱のパートナーであったことでイジメられるようなこともなく、また凱もそんな音を受け入れていて、彼女は概ね穏やかな一生を送ることができたようだ。
その音が亡くなったことで、凱はまた、悲し気に遠吠えを上げ続けた。しかしその遠吠えにもすでに力はなく、遠くまで届くようなものではなかった。レオンの雄としては異例とも言えるほど長く生きた彼だったが、いよいよ命の残り時間が少ないことが察せられた。完全な<野生のレオン>ではそれこそ足手まといとして群れを追い出されたり殺されたりしてもおかしくない状態である。
凱の父親である錬是はそんな彼を案じ自分の下に帰ってきてくれてもいいと考えていたが、凱はもはや錬是のことなど忘れたかのようにただ今の暮らしを続けていた。
彼にとってはもう、ここが<世界のすべて>なのだろう。加えて理不尽に虐げられるわけでもないのだから、ここを捨てる理由がそもそもないのだ。




