閑話休題 萌花
萌花は、光と順の長女であり、陽の妹である。
姿こそ地球人そのままではあるが身体能力的にはパパニアンの形質を色濃く受け継いでおり、成長が早い。年齢は満九歳。もうすぐ十歳となるが、外見上はすでに＜二十代半ばくらいの大人の女性＞のそれだった。とはいえ、満年齢では十歳にも満たないのもあり、表情や立ち振る舞いにはあどけなさも。
また、＜年下の叔父＞である錬慈とは二歳しか歳は離れていないものの肉体的にも地球人そのものの錬慈の外見は七歳児そのものであり、二人が仲良く一緒にいると、まるで、
＜若い母親とその息子＞
にさえ見えてしまったりもする。血縁があるがゆえに顔だちもどこか似ているせいもあるだろうが。
まあたいていの人間は＜叔母と甥＞や＜従姉弟＞と捉えるか。
しかし実際は萌花が姪で、錬慈が叔父なのだ。が、二人にとってはそんなことはどうでもいいのだろう。元から萌花は錬慈を弟のように感じて可愛がっていて、錬慈も萌花を姉のように慕っていた。＜実の姉＞である光よりもずっと。
光の方もそんな二人の様子を微笑ましく思っているだけで、詳細な親族関係については気にしていなかった。そんなことをいちいち気にしていては無駄に疲弊するであろうほどに複雑な関係が背景にあるがゆえに。
だからただ目の前にいる相手を真っ当に受け止めることを心掛けるのが適切なのだろう。地球人社会では＜普通＞と称される形があってそれから外れれば異端視されたりもするが、なるほど社会そのものが小さく互いの関係性が＜ただの顔見知り＞程度では済まなかった時代であれば極力似通った感覚が共有される方が安定もしたかもしれないが、移動手段や通信の高速化および経済活動の広範囲化に伴って社会が拡大すれば、ただ同じ形態を持つ社会に属しているというだけで顔見知りでも何でもない者同士がわざわざ価値観のすり合わせを行う必要もなくなってくるだろうし、おそらくそんなことをするだけの手間を掛けていられなくなるだろう。神経をすり減らすだけなのだから。
それぞれが＜多種多様な者が存在するという事実＞を受け止められるようになることが＜人間社会の維持＞には必要になってくるのだ。それができなければ互いに互いを否定し合って衝突し、破滅へと向かうしかなくなっていく。少なくとも地球人はそれができるだけの力を持ってしまったのだから。
しかしそんな話とは無縁な萌花と錬慈は、今日も、
＜仲の良い姉弟＞
そのものの様子で楽し気に遊んでいたのだった。
