ルイーゼ編 端緒に付いたところ
ルイーゼの様子は、食の好みが若干変わり睡眠時間が少し増えたくらいで他はそれまでと大きく変わるものじゃなかった。正直、
『もっと体を大事にするべきなんじゃないか?』
と思ってしまうくらいには雑な振る舞いだったのも事実だ。ただ、もしそれで<流産>してしまうようなことがあっても受け入れる覚悟は、俺達の方も持ってる。彼女は<そういう人間>だからな。斗真もそれを気にすることもないだろうし。
しかし皮肉なことに、彼女の胎内に宿った<命>はとても強いものだったのか、それとも<メンテナンス>が功を奏したのか、すごく順調に育っている。
<妊娠継続に必要なサポート>
は、医療用ナノマシンに標準で備わってる機能だしな。積極的に子供を持つことを望まない者が多い分、妊娠した時にはそれを確実に結果に結びつけることが今は望まれてる。意図して<不妊治療>を行わなくても、<医療用ナノマシンを用いたメンテナンス>を受けるだけである程度妊娠に適した体内環境は維持されるし。
その一方で、焔と彩も、言い方は変だが『順調に衰えて』いる。それまで二人が自分で用意していた<寝床>ではなく俺達が<緩和ケア>用に用意したベッドに二人して寄り添うように横たわったまま起き上がることもままならない状態だ。いわゆる<寝たきり>だな。
ちなみに<緩和ケア用ベッド>はそれ自体が一種のロボットで、患者のバイタルサインを常にモニターし、負担を軽減するために最適な状態を維持してくれる仕様のものだ。その上でセシリアがつきっきりでケアしてくれる。生身の人間なら二十四時間体制でケアするとなると最低でも三人以上の人員が必要になるところが、休息を必要としないメイトギアなら一機で事足りる。介護の現場ではメイトギアの登場が本当に望まれていたというのを実感するよ。
しかも、生身の人間ならとてもやってられないような丁寧な対処をしてくれるし。メイトギアがなかった頃には戻れないことを思い知らされるな。加えて、メイトギアがいてくれるからこそ焔と彩を受け止めていられるのも痛感する。
いくら綺麗事を並べたって現実問題として今の状態の二人を受け止めるのは並大抵のことじゃない。<覚悟>なんて言葉でも受け止めきれないさ。それも分かる。分かるからこそ<負担を減らす対応>は必要なんだ。
<人間として生きるのに必要な理念>
を成立させるためにもな。地球人社会でも今なおその真っ最中だったから、ここじゃそれこそようやく端緒に付いたところと言えるか。




