ルイーゼ編 心理的きっかけの一つ
焔と彩の症状は日を追うごとにただただ悪化の一途を辿っていた。当然だ。劇的に改善する方法なんて今のところはないんだからな。<薬>を使っても症状を多少緩和するだけで『治る』ことはない。しかも副反応も伴う。認知症を完全に治すには専用の設定を施した医療用ナノマシンで脳を物理的に修復するしかないんだ。
まあそれも『寿命を永遠に伸ばすことができない』以上は一時的なものでしかないけどな。さりとて残りの寿命を、周囲の人間も含めて穏やかに過ごすには非常にありがたかったりするだろう。
その一方で、
『認知症を患うのは死の恐怖を紛らわせるため』
という説もあり、完全に治してしまうんじゃなくて、
『取り敢えずの記憶と理性をある程度取り戻すだけに留める』
的な処置もよく選択されるらしい。まあ、厳密にはそこまで緻密に確実に選択できるわけじゃないから『だいたいそのくらいで』という感じらしいが。
人間の脳についてかなり解析も進んでるものの今なお<完璧>ってわけじゃないそうだからな。
それでも、今の俺達には<まるで手の届かない高み>ではある。シモーヌ達が惑星探査の任務に就いた頃でさえ、<資源惑星>の開発はそれなりにされていて、地球では手に入らない貴重な資源を手に入れることができていたからこそ<恒星間航行技術>の実用化にもこぎつけたし、AIの高性能化も一気に進んだそうだ。
ただ、地球人が最初に手に入れた<外宇宙の資源>は、
<偶然にもたらされたもの>
だったそうだけどな。というのも、<人口爆縮>がピークを過ぎた頃、太陽系に一つの<自由惑星>が進入してきたんだ。実はそれは、太陽系外の観測精度が高まったことによって発見されたものだった。だが最初は、
『地球に衝突するコースを取っている』
とされてパニックを引き起こしたものだったんだとか。
<人口爆縮の心理的きっかけの一つ>
ともされている。なにしろ、<月>の六倍の質量を持つとみられていて、そんなものが地球に衝突すればそれこそ、
『人類どころか地球上のすべての生物が滅ぶ』
レベルの話だ。まあ実際には、
『地球と火星が最接近する時の一・七倍の距離でかすめるだけ』
なのがすぐに確認されたそうだけどな。しかし、
『政府はパニックを避けるために噓を吐いている』
的ないわゆる<陰謀論>が広まって、
『滅びるのが分かってるのに子供を作るなんて可哀想だ』
ってな空気が蔓延したんだと。実に無責任な話ではあるが、それも人間(地球人)の悪癖の一つか。




