ルイーゼ編 一緒に背負ってくれる人
そうだ。焔と彩には、揃って認知症の症状が出始めている。いくら野生に近い生き方をしていても、俺達の集落内で暮らし、<防衛ライン>内部でのみ行動していれば本当の野生のような<危険>はほぼないに等しい。マンティアンもパルディアもアクシーズもボクサー竜も猪竜も、二人の身体生命に危機をほとんどもたらさない。そういう環境に長く暮らしてきたことで自身の衰えを隠す必要がなくなってしまったんだろうな。
『守られてる』のは凱達も同じだが少なくとも凱達は他のレオンの群れやオオカミ竜の群れを直に目にする機会も多く、危機感は桁違いにあるだろうから無意識レベルではそこまで気を抜くことはできなかっただろうさ。
だが、焔と彩は違う。ごく偶に防衛ライン内深くまでマンティアンが入り込んだりしていても、鋭は同じ集落内に暮らしていても、さらに晴や淕や游煉とは顔を合わすことがあるとしても、エレクシアやイレーネやドーベルマンDK-aらが常に間に入って衝突しないようにしてくれてたから、問題はなかったんだ。
その<安全すぎる環境>が、二人を呆けさせてしまったのかもしれない。
だがこれは、俺としても覚悟していた事態だ。密や明の件を経て、俺のすぐ近くで暮らしている以上は高い確率で生じる問題であることはな。
加えて、<脳疾患用のナノマシン>を持たない以上は『そうなってしまう』のを確実に回避する方法もない。誉はそうなる前に命を終えたが、本能的に引き際を察したかのように誉の心臓は鼓動を刻むのをやめたが、焔と彩はそうじゃなかった。こうなる可能性があるのは分かってた。
それでも、二人の体が自然と終わりを迎えるまでは見守ろうと決めてたんだよ。
このことについても散々考えてきた。思考してきた。だからこそ俺ももう狼狽えないさ。ただ成り行きに任せるだけだ。
症状がさらに進んでそれこそ密の二の舞になったとしても。
これを回避したかったのなら、二人を俺の近くに置いておくべきじゃなかったさ。それも分かってる。分かってて二人を追い出さなかった俺のエゴが招いた事態なんだ。
いや、『俺達の』か。
「錬是だけが背負う話じゃないからね」
「うん、お父さんだけの責任じゃないよ」
シモーヌと光もそう言ってくれてる。
「ありがとう……」
正直な気持ちが口をついて出る。覚悟はしてるつもりでも、やっぱりつらいものはつらいしな。それを一緒に背負ってくれる人がいるというのは、本当にありがたい。




