ルイーゼ編 エネルギーを消耗する行い
アリニドラニ村においての斗真もそうだが、焔と彩も上手く俺達の集落の中で折り合いをつけて生きていた。二人は斗真よりももっと野生の獣に近いはずなのに、人間である俺達とそんなに衝突せずに生きていられたんだ。
和や陽や麗が遊んでて自分達のテリトリーを騒がすようなことをすれば牙も剥いたにせよ、それは人間でもあることだろう? 他人様に迷惑を掛けたら怒られるなんてことは。
そうでなく一方的に理不尽に攻撃を仕掛けてくるようなことはなかったんだよ。まあそれは、
『その必要がなかったから』
というのもあってのものかもしれないが。俺達の方が二人に過剰に干渉しないようにしてたことで二人の方も自分を守るために攻撃的になる必要がなかったわけだ。しかし人間関係も基本そういう部分はあるんじゃないのか? 一方的に干渉してくる厄介な人間もいるのと同時にこちらが適切な距離を心掛けていれば無闇に踏み込んでこない人間もいたはずだ。俺だっていちいちこちらから他人にやたらと絡んでいくつもりはなかった。そういうことはしないタイプだった。
焔と彩も、若い頃はやや気性の激しい部分も目立っていたものの年齢を重ねるごとにその辺りも影を潜め、今ではすっかり穏やかな感じになってしまった。
ただ同時に、実は最近、<認知症>の傾向が見られ始めてるんだ。二人して呆けていたと思ったら、いつの間にか<失禁>していたり。人間(地球人)の高齢者と違っておむつは使っていないから、<垂れ流し>ではある。あるが、そこはセシリアがフォローしてくれている。
「焔様、お湯浴びをいたしましょう」
柔和な感じで声を掛けると、焔も黙って従ってくれる。
やたらと看護師や介護士に反抗的な態度をとる高齢者もいるが、それってなぜなんだろうな。野生の獣に限りなく近いはずの焔や彩でさえ露骨に攻撃的には振る舞わないのにな。これは何度も言うように、
『その必要がない』
ということなんだろうさ。
『怒る』というのはなかなかエネルギーを消耗する行いだ。だからその必要がなければわざわざ怒って無駄にエネルギーを浪費したいと思うか? 人間はそこで無駄にエネルギーを浪費したりすることはあっても、<エネルギーの浪費>がずっとシビアな問題になる野生においては、実は人間よりもよっぽど合理的だと思う。ライオンなどの猛獣も、獰猛さを発揮する必要がない時にはぐうたらしているように見えるほどだったりするのもそれだろうさ。
焔と彩も、集落の中では獰猛さを発揮する必要がなかったから年を経るごとに穏やかになっていったんだと思う。




