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出発(やっとだな)

翌日は朝から雨だった。熱帯雨林的な環境の割に雨の降り方は比較的おとなしいと思う。しかも湿度は高いが気温はそれほどでもないのにこの状態だから、たぶん、植物の方の生態としてこういう植生になりやすいんだろうな。


今日は取り敢えず移動だけの予定なので、雨もあまり強くなる様子もないし、調査を決行する。


昨日ので慣れたのか、俺がローバーのドアを開けると、(ひそか)(じん)も大人しく乗り込んでくれた。河に怯えてたようだったからひょっとしたら嫌がるかもしれないとも思ったがそうでもなかったようだ。河は怖いが離れるのも嫌だということだろうか。


その辺りはおいおい確かめるとして、生きた動物しか食べない(じん)用の非常食として、エレクシアに小動物を生け捕りにしてもらっていた。それらを入れたオリも荷台に積み込み、いよいよ出発する。


「よ~し。じゃあ、ドライブ&船旅としゃれこむか」


そう声を上げながらアクセルを踏み込む。昨日通ったルートを再び通り、まずは河に出た。(ひそか)(じん)の様子を改めて確認するが、昨日よりは明らかに落ち着いてるように見える。


(ひそか)(じん)のバイタルサインにも過度な変化は見られません。緊張はしていますが問題行動を起こすレベルとは認められません」


と、エレクシアのお墨付きももらったことだし、いよいよ行くか。


再びアクセルを踏み込んで河へと入っていく。車体がふわりと浮く感覚があり、ブランゲッタによる航行に切り替えた。殆ど音もなく揺れもなくするすると水面を進む独特の乗り心地は慣れないと違和感もあるだろうな。波による揺れも軽減されるから普通のスクリュー推進の船に乗ってるのとも違うんだ。揺れとかは舗装された道路を走ってるのと大差ないのに地面に接地してる感覚もないから、整備された氷の上を滑ってるって感じに近いだろうか。


だがその時、エレクシアが声を上げた。


「三時の方向、来ます」


それほど緊迫したそれではなかったが不意の報告に俺もハッとなってしまった。


「昨日の有翼生物です」


エレクシアの言葉の数瞬後に、昨日と同じくガン!とローバーの屋根に降り立つ気配が。マイクロドローンを射出し、カメラで確認する。


「ああ、確かに昨日のやつだな」


獲物を狙う目でカメラを睨み付けるそれは、間違いなくあの鳥人間だった。よっぽどこのローバーが気にったのか。河の真ん中あたりまで出たとはいえ、向こう岸からわざわざ飛びついてきたらしい。カメラを睨みながらも割と落ち着いた感じでルーフキャリアの上にしゃがみこんでいた。


愛嬌のある感じの(ひそか)や、離れたところから黙ってじっと見詰めてくる、何を考えてるのかよく分からない(じん)に対して、その鳥人間はどこか怒ってるような感じで睨み付けてくるタイプのキャラだな。(じん)に似ているようでいて実際の印象は異なる。


「まあいいか。具合が悪かったら勝手に離れるだろ」


しばらく進んでも離れる様子がないので、俺は気にせずそのまま遡上を続けることにした。


カエル型プローブを放ってローバーのバンパーに取り付かせ、エレクシアとリンクさせる。


「リンクは良好です。データ取得も問題ありません」


俺はモニターに映し出された水中の様子を確認しながら慎重に進めるが、エレクシアには、たぶん、目の前の河が透けて見えてるんだろうなと思ったりもする。自身のカメラとプローブが取得した情報とを重ね合わせて映像化してるだろうからな。


航行は、拍子抜けするほどに順調だった。河を遡り始めて二時間ほど経つが、周囲の景色は変わり映えしない。同じような密林だ。時折、ローバーに驚いたらしい魚が飛び跳ねてフロントウインドウにぶつかったりする程度のハプニングしかなかった。


最初は不安そうだった(ひそか)も何の問題もないことで慣れて退屈になったのか、シートに横になって寝てしまった。


更に二時間ほど進む。それでも景色は変わらない。(ひそか)は、完全には寝ていないが、うつらうつらしている感じになっていた。しかし(じん)の方が、ドアの近くに移動して、外に出たそうに窓を見詰めている。狩りの時間ということだろう。


「よし、いったん上陸して休憩といこう」


俺は少し開けた感じの河辺にローバーを上陸させた。ただし、いきなり(じん)を外には出さない。例の鳥人間がまだ上にいるからだ。(じん)にとっても油断ならない存在らしいからな。


というわけで。


「エレクシア、(じん)の食料を確保してもらえるかな」


そう。エレクシアに代わりに捕まえてきてもらうのだ。彼女のカメラには、林の中に見え隠れする小動物の姿が捉えられていたからな。


「承知しました」


応えながらエレクシアは、ドアを開けて体を外に出した。


とその瞬間、屋根の上を何かが凄まじい速さで移動する気配が。


『あいつか!?』


などと俺が思った時には既に、エレクシアの頭を鋭い鉤爪が捉えていたのだった。



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