ルイーゼ編 身支度
そうだ。専制君主制を取っているとされていた国家だって、なんだかんだと<議会>のようなものはあって、さらに実務を行う役目を持った者達がいて、それらが<仕組み>として機能して、だからこそ多少能力に問題のある人物が君主の立場に就いたとしてもすぐに滅んだりしなかったよな。
社会ってのはそういう形で出来上がってるってことだ。たった一人の人間がすべてを管理してるわけじゃない。
まあ現在の地球人社会はもはや『たった一人』どころか『人間だけ』では維持できなくなってるけどな。
そしてその仕組みを成り立たせるためには、多くの人間の協力が必要なんだ。それぞれ異なる得意分野を持つ多くの人間の。ルイーゼや斗真の存在だってそういうことだ。
俺がどうして<多様性>というものを認めようとしているのかはこうして言葉で説明しようと思うが、それでも理解できない者は理解できないだろう。厳密には、
『理解したくない』
ということなんだろうが。
でもなあ。そうやって、
『自分にとって都合の悪いことは理解したくない』
という姿勢は結局のところ自分に返ってくるんだよな。他人から見て理解できない部分を理解してもらえないという形で。こう言うと恐らく、
『向こうが先にこっちを理解しようとしなかったからだ!』
とキレるんだろうが、それって所詮は『他人の所為にしている』だけだろう。そして自分がそうやって他人の所為にしているクセに自分以外の人間が他人の所為にしようとするのは許さなかったりするんだ。そういうのを地球人社会にいた頃にも散々見てきた。だから俺はそういうのは避けなきゃと思ってるわけで。となれば、ルイーゼの在り方についても俺には理解できないからといって頭ごなしに否定するのも避けたいんだ。
で、そのルイーゼは、斗真が仕事に出てしばらくすると目を覚まし、寝間着姿のままで自分の研究室に向かおうとした。睡眠時間は三時間ほど。それをアリニが、
「まずは歯磨きをして着替えましょう」
と告げて、ルイーゼの歯を磨き始める。
「あ~……」
いかにも煩わし気に口を開けてなすがままになってる彼女に悪印象を持つ人間は少なくないだろう。だがアリニはまったくそんなことは気にしない。ルイーゼがじっとしていられる時間を見極めた上で最大限丁寧に歯を磨いてくれる。
洗面所に行くことすら渋るので、サブアームにはうがい用の水とそれを受けるバケツを持ち、うがいを終わらせると、今度はボディに取り付けた保温ポーチから蒸しタオルを取り出してルイーゼの顔を拭き始めたのだった。




