ルイーゼ編 バランスが取れてる
<子だくさんのマリア>の中では二十人の、現時点で確認できる情報では二十二人の子供を産んだとされるマリア・ルードソンも、現在の地球人社会でならそこまで大変じゃないかもしれない。<出産の負担>についても医療技術の進歩に伴って負荷が大幅に軽減されてるしな。<無痛分娩>は当たり前で、出産時に必要とされる諸々のケアも厚い。これも専用のメイトギアが産院に配されているからだ。
まあそれでもさすがに二十人ともなれば大変だろうか。しかもここまでやっても『子供なんて産みたくない』という女性も決して少なくないわけで。
だが俺はそれを『生き物として間違っている』とは思わない。生き物として間違ってるなんて言い出したら<地球人という種>自体がそもそも間違ってるって話になってしまうしな。加えて自然妊娠可能な時期が百年以上あり、さらに医療的なサポートを受ければ安全に妊娠できる期間は百五十年を超えるそうだ。となれば、その間に気持ちや考え方が変わって一人や二人子供を産むことだって現にある。だから、実際には七割の女性が生涯のうちに一度くらいは子供を産むんだと。それにより、地球人の総人口は緩やかな増加傾向という状態で保たれてるわけだな。計算上では千年で一割増える程度だとも。
まあ実際には事故などで亡くなる人数が不確定要素としてあるからそこまで増えることもないらしいが。
つまり、『地球人が増えすぎることはない』と言い換えることもできる。バランスが取れてるんだよ。これですべての女性が積極的に子供を産もうと考えれば途端にこのバランスは崩れ、新たな<人口爆発>が起こるとも考えられてる。ということは、<子だくさんのマリア>のような作品によって啓蒙を行うのは逆に藪蛇に繋がる可能性が高いわけだ。
さりとて<ただの創作>として捉えれば触れたい者が触れればいいわけで、ことさら禁忌扱いにする必要もない。だから今でも<子だくさんのマリアという作品>は、閲覧可能な状態にある。
人間(地球人)ってのは、『隠されるとそれを暴きたくなる』という厄介な習性も持つからな。だからこそ、<歴史上の闇>という形で明らかになってない部分を解明しようと躍起になっている専門家もいるんだ。
<惑星ハイシャインの悲劇>なんてむしろ<よく知られてる部類>にさえ入るんだとか。俺が地球人社会にいた頃にも、観測衛星が付けられて記録を取り続けていたそうだし。
ちなみにその<観測衛星>は、
<メイトギアが乗った惑星探査用亜光速ロケットを再利用したもの>
だそうだ。




