ルイーゼ編 ついついモヤっとした気分に
本当に人間(地球人)ってのは他人を妬まずにいられない生き物なんだろうな。
正直言って俺にもそういう部分がまったくないわけじゃない。自分より恵まれていると感じる人間に対してはついついモヤっとした気分になってしまうこともある。
いや、それどころか地球人社会で暮らしていた頃には、両親を事故で喪い、妹は恐ろしい病を患いその介護に疲れ果てて、『普通にしていられる』人間を確かに妬んだりもしていた。俺もその程度の人間なんだよ。
今はそこまでの状況じゃないからあくまでそういう感情に囚われないようにしているだけだ。振り回されないようにしているだけだ。
こう考えると他人を妬まずにいられない人間は、
『そうせずにいられない状況にある』
ということなんだろうなとつくづく思う。実際、精神的に不安定な状態にある人間をメイトギアがつきっきりでケアするようになってからは、ネット上で過剰な<攻撃>を行う人間の数が大きく減ったそうだ。湧き上がる衝動を受け止めてもらうだけでも、他人にそれが向かう事例が減るからな。
ロボットはどれほど人間から攻撃されようともそれを気に病むこともない。『気に病む』のは心や感情があるからだしな。心や感情を持たなければ『気に病む』ということ自体が発生しないわけで。
ゆえに徹底したケアも可能になる。人間だったら、
『付き合ってられるか!』
と思ってしまうようなものでも怯むことなく対処してくれる。それでもネットを中心に他人を妬んで過剰な攻撃を行う人間は完全にはいなくなっていない。メイトギアのケアを敢えて拒むのもいるという話だ。俺もそういうのの一人だったから、なんで拒まずにいられないのかなんとなく想像がつく気がする。ロボットに憐憫を向けられているような気がしてしまうんだよな。それがたまらなく屈辱なんだ。
何度も言うようにロボットには心も感情もないから『憐憫を向ける』ということ自体がそもそもできないんだが、人間の方は変に想像力があるがゆえにありもしないことを想像してしまって勝手に感情的になったりもするということだ。
見ず知らずの他人を妬んだりするのも、勝手にその相手と自分と比較してしまうからだろうし。
『自分はこんなにつらいのにどうしてこいつだけが助けてもらえるんだ?』
みたいなことを勝手に想像してしまうわけだ。ただその想像力はなぜか、
『相手の内心を想像する』
方向には働かなかったりする。
それに、『だけ』じゃないんだ。必要とあったら自分も助けてもらえるんだよ。




