ルイーゼ編 取引
ああそうだ、ルイーゼにもしものことがあったら俺達にとっても大きな損失だ。だからどうあっても簡単に死んでもらうわけにはいかない。これは<取引>なんだよ。彼女の才覚によって俺達に利益をもたらしてくれる代わりに身体生命の保証をするのに加え、相応の待遇をするという。
彼女が俺達にもたらしてくれる利益に比べればこの程度の待遇はむしろ割安だろう。彼女が望めばもっと厚遇を用意しても十分にお釣りが来る。
だがルイーゼはそんなものに興味がない。どこまでもただただ自分の関心事に集中したいだけなんだ。
ちなみに最近の彼女は、移動中は斗真が鍛えた<鋼>をひたすら堪能するのがマイブームのようだ。顕微鏡を用いて鋼の組織をじっくりと観察し、うっとりとしている。
その表情がまた何とも艶っぽい。
ルイーゼの<見た目の造形>そのものは実に凡庸で目立たない印象なんだが、鉱物や金属を眺めている時の彼女は何とも言えない色香を放ってるんだよ。
俺の好みのタイプかと言われるとそれとはまた別だけどな。しかも彼女は人間に対してはそういう表情を見せることがない。俺も見たことがない。実は斗真に対しても基本的には見せないそうだ。少なくともアリニやドラニの前では見せていないとのこと。
それが斗真の鍛えた鋼を眺めている時にはこれだから、本当に面白い人だと思う。
さすがに治療カプセルに入っている間はずっと寝ているが、それも時間にすれば六時間程度。普通の睡眠よりはずっと深いものになるから単純に時間だけでは測れないものの、彼女にとってはそれでも『長すぎる』と感じるそうだ。あくまでそこを我慢してもらってる状態だな。
そうして<メンテナンス>を終えると息吐く暇もなく深夜であっても関係なくアリニドラニ村にトンボ帰りする。
本当に極力<彼女の都合>に合わせてる形だ。
地球人社会ではそんな<特別扱い>を妬む者も少なくないだろうが、彼女はそれだけ<特別な存在>なんだよ。与える影響が大きいんだ。功績が大きいんだ。
大きな功績には<相応の褒賞>が必要だろ?
ルイーゼは、オリジナルの方もそうだが金銭や地位や名誉にはまったく関心を示さないから、この特別扱いは<褒賞の一部>とも言えるかな。
だから妬んだりするのは完全に筋違いってもんだろうさ。
でもなあ、ここまで説明しても納得しない奴は納得しないんだよな。その感覚は何なんだろうなとつくづく思う。どうしてそこまで他人を妬めるのか、俺にはまったく理解ができない。




