ルイーゼ編 メンテナンスの日
そんな中、今日は<ルイーゼのメンテナンス>の日だった。
メイトギアであれば大きな負荷がかかるような運用をしていなければ、メーカー推奨のサイクルを超えてのメンテナンスであっても大きな問題はないが、あくまでも人間であるルイーゼの場合、食事も休息も睡眠も極端に不規則という生活を続けていては、それこそ命にさえ関わる場合すらある。
実際、メイトギアによるサポートが不十分だった頃には、あまりにも不健康な生活の果てに<突然死>という形で命の幕を下ろす者が珍しくなかったそうじゃないか。
今の地球人社会においてはそこまで自分を追い詰めなきゃ生活できないような者はほとんどいない上にメイトギアが主人やその家族のバイタルサインを常にモニターしてくれているので生命に関わるような危険な予兆があればすぐさま対処してくれる。医療技術がどれほど進歩しようとも、手遅れになってからでは救いようもないからな。
実はルイーゼのメンテナンスについては、オリジナルの彼女もそういう形でメンテナンスを受けていたそうだ。職務上の命令としてそうしておかないと彼女は本当に死ぬまで自分の関心事にだけ集中しかねなかったとのこと。
彼女にとっては自分の命よりも<鉱物への関心>が大事ということなんだろう。これも<生き物>としてはあまりに歪だ。野生の生き物であればおそらくそれこそ生きてはいけない。早々に淘汰されるような個体だろう。
だが人間の場合は、<個としての力>を捨てた代わりに<種としての力>を高めることに成功した。<個が持つ力>が歪で生き延びることには向かなくても、<人間という種>としてそれをフォローすることで活かすことができるようになった。
<天才>と称される者達の中にはそれこそ社会生活を営んでいく能力さえ欠いたのが少なくなかったそうだし。
野生の生き物の場合はまず<個>が生き延びるのが大前提だ。それぞれの<個>が自ら生き延びなきゃ何も残せない。
対して<人間(地球人)>の場合は、<個>に生きる力がなく、しかし<種を活かす力>を持っていた場合には、生きる力を補うことでその個が持つ力を利用することができた。
しかも<直接種を活かすことができる力>でなくても、
<種を活かすことができる力を持つ者を活かす力>
という形を引き出すこともできるようになったんだよな。だからこそ今の地球人類がある。
『自力で生きられない奴は勝手に死ね』
じゃ今の地球人類は存在しえなかっただろうな。




