閑話休題 碧
錬是の息子の一人である誉がその生涯を閉じてから半月以上が経ち、心情的にも日常が戻ってきた頃、今度は碧が息を引き取った。
気丈に振る舞っていたように見えていたが、もしかするとそれはあくまで、
『弱っている様子を見せない』
という<野生の在り方>に従っていただけなのかもしれない。なにしろ碧は、誉以外のパパニアンと子を成すことがまったくなかったのだ。
野生に生きる者は、
『自分の遺伝子を残す可能性をより高める』
『より優れた子を成すことを求める』
がゆえに、チャンスとみればパートナー以外の相手との子を成すことも珍しくないのだから。
なのに碧は誉と以外に子を成すことがなかったのである。それだけ誉を<唯一無二>と認識していたのだろう。
まあ確かに、彼女にアプローチしてきた雄の中で誉を超える者はいなかったのだろうが。
単純に<力の強さ>であれば誉を凌ぐ者もいただろう。<見た目に優れた者>もいただろう。しかしその者達は『メイフェアを従える』ことができなかった。誉だけが唯一メイフェアを従えることができたのだ。これはあまりにも大きなアドバンテージだと言える。
地球人はこう言うと、
『メイフェアのおかげだろ! 誉自身の力じゃない!』
『チートだ! チーターだ!』
『卑怯者!』
などと罵ったりもするだろうが、それを言う者達であっても誉と同じようにメイトギアを従えることはできる。メイトギアをはじめとした<地球人社会製のロボット>は地球人でありさえすればちゃんと従ってくれるのだ。だからこそ誉がメイフェアに仮にとはいえ<主人>と認められたのは特別なことなのである。その<特別>が<魅力>となるのはそんなにおかしいことだろうか?
しかも誉はそんな力に溺れることなくきちんと己を律してみせた。その彼を魅力的に感じるのはそんなにおかしいことだろうか?
いずれにせよ碧は生涯、誉だけを愛した。その事実に難癖をつけるのは、人として高潔な振る舞いと言えるだろうか?
それを考えることなくただ自分の感情に従いたいだけなら、好きにすればいいだろう。そういう人間を<魅力的>と感じてくれる者がいればの話だが。
少なくとも誉はそうじゃなかった。他者が持ち得ない力を得ても理不尽な暴君にはならなかった。
そして碧はそんな彼を愛したのだ。
それゆえに生きる力を失ったのかどうかまでは分からない。それを確かめる手段もない。ただ、誉の後を追うようにして碧が命を終えたという事実だけがそこにあるのだ。




