メイフェア編 生きるという事象の一つの形
こうして、＜竜生の命＞は完全に完結した。最後は＜貴重な資料＞という形に帰結したんだ。
これについて、
『酷い』
『残酷だ』
的に言う人間（地球人）もいるだろう。本音を言えば俺自身も気持ちの上ではそんな風に感じてしまう部分もないわけじゃない。
だが、これまた、
＜生きるという事象の一つの形＞
だとも思うんだ。新がああいう最期を迎えたのと同じで。これが＜罪＞だと言うのなら、それについては甘んじて受け止めなきゃいけないさ。
もっとも、今の時点じゃそれを罰する者はいないけどな。これを＜動物虐待＞的に咎める者もいない。もしこの俺の＜手記＞がまかり間違って地球人社会で出版でもされるようなことがあれば批判が殺到したりもするかもしれないが、それこそ過激な連中からは＜殺害予告＞もあったりするかもしれないが、まあその時点では俺はもう生きちゃいないだろうさ。
それに、＜殺害予告＞なんてのを今の地球人社会のセーフティネットの一つであるAIが見逃すはずもない。すぐさま当局に通報して対処する。『悪質性が高い』『深刻度が高い』と判断されれば逮捕もされる。
もっとも、端末にも搭載されたAIは＜主人＞が犯罪者になってしまわないように忠告してくれるから、それさえかいくぐって＜殺害予告＞なんてしようとする奴は『悪質性が高く』て『強固な害意を持っている』と判断されることがほとんどらしいけどな。
普通は忠告された時点でやめるだろ。それをやめないってのは相当だと感じる。
なんてのは余談だとしても、この朋群に出来上がっていくであろう人間社会についてはこの辺りのメンタリティは大きく異なるだろうな。だから反応も違う気がする。
それでも、今回のことについて、
『正しいことをした』
とは考えないようにしたいと思う。確かに＜必要なこと＞ではあるもののこれを正当化しようとすればついついエスカレートしていく可能性も高いわけで。
人間というのは本当に自分に甘い生き物だ。自分の甘えを正当化してくれそうな根拠があるとなればいくらでも拡大解釈しようとする悪癖がある。
それと同時にこの世には、
＜時として必要ではあるが必ずしも正しいとは言い難いもの＞
というものが現に存在する。＜武力＞なんかがその代表例だろうし、今回の件もそうだろうな。
＜誉の群れにおけるメイフェアの存在＞
もか。
誉の群れにとっては彼女の存在は欠かせないにせよ、＜パパニアンの世界＞という括りで見ればあまりにもイレギュラーな存在なわけで。
