メイフェア編 役割分担
俺がそんなことを考えている間にも竜生の解剖は順調に淡々と進む。
「各臓器の配置は我々人間のそれに非常に近いが、それぞれの臓器そのものの形状については鵺竜のそれに準じているようだね」
まったく手を止めることなくレックスが同時に解説してくれているのを俺は感心しながら視聴するしかできなかった。
ちなみに<鵺竜の臓器の形状や構造>については、もちろん実物を解剖して調べられたわけじゃなく、あくまで解析された遺伝子情報を基にコーネリアス号のAIで再現したそれを承知しているだけだ。麓にドローンを派遣しても、確認できる死体は当然のごとく損傷が激しく、ましてや臓器が露出するほど食い荒らされていれば、原型を留めている臓器などほぼ存在しないわけで。だからそこからでは本来の形状など把握しようもない。
ホントにAI様々だよ。
その一方で、<専門家>にとってはこうやって現物を実際に自身の目で見て手で触れるというのはすごく大事なんだろうなと思わされるな。シモーヌが残念そうにしている様子からも。
さすがにレックスとシオが担当しているだけあって、二人の視点と狙いを酌んだアンデルセンと鈴夏が向けるカメラのアングルも『痒いところに手が届く』ものらしい。だから映像情報としては非常に優れているものの、さすがに肉眼で見て自分の手で触れているのとはわけが違うというのも事実ではある。
まあ、レックスとシオが使っている防疫服には、メイトギアにも用いられている高性能なセンサーが備えられていて、そこから得られた<感触>などもデータとして保存し、シミュレーションの際に利用したりもできるし、当然、実際に作業を行っているレックスやシオの防疫服の内側にもそれが再現されてるから、かなり<素手で触れた感触>が再現されているそうだ。
さりとてこれはあくまでレックスやシオのような<専門家>向けの特別仕様であってさすがに一般仕様はそこまでの機能は持たされてない。機能が付与されればそれだけ高価になるしな。だから俺が使ってる<宇宙服>にはそんな機能はない。そういう機能を待つものも売られてたものの俺には手が出なかったし、必要性も感じてなかった。<生物資源の調査>でもエレクシアがいれば問題なかったし。
こういうところも<専門家>と<素人>の違いなんだろうな。
『どこまでを必要と考えるか?』
の基準がまったく違うわけだ。違うからこそ『専門家が存在する』とも言えるか。<役割分担>ということだろうさ。




