メイフェア編 興奮
「次は反対側だ」
レックスがそう告げると、イレーネとアンデルセンと鈴夏が竜生の体の向きを変えた。立派な尻尾があるせいで、<仰向け>に寝かせられないんだ。いわゆる<横臥>の状態で寝かされていたのをひっくり返したわけだな。
こうして反対側もじっくりと確認する。
「やはり外見上では雌雄は判別できないな」
彼が口にした通り、竜生は外見上からは雌か雄かの区別はつけられなかった。これは鵺竜にも割とよく見られる特徴で、通常は<総排出孔>のような穴が見られるだけなんだ。
雌の場合はそれでも問題ないんだろうが、雄はそうはいかない。基本的に<交尾>という形で繁殖行動を行うのは鵺竜も同じなので、<ペニス>が当然必要になってくる。
たぶんクロコディアと同じで普段は鱗の下に収納されていて、必要な時だけ露出するようになっているんだろう。
まあクロコディアの場合は、外性器を覆っている鱗の形状が違うことで、外見上でも区別がつけられるんだが、鵺竜は違うようだ。もっともこれについてもドローンを派遣してカメラで記録できた部分でしか分かっていないことだけどな。ただ、交尾についても映像として捉えられているから、雄にペニスがあるのは確実なんだろう。
地球にかつて存在した<恐竜>に近いシルエットを持ちながらも、細かい部分では恐竜とはまったく異なる生物なんだというのがこれで分かる。
その事実にレックスも興奮が隠しきれないようだ。あくまで冷静を装いつつも竜生を見る目が輝いているのが俺にも察せられた。
この辺りは彼もちゃんと人間なんだと感じさせるよ。ロボットは<興奮>なんかしないしな。
シオも、自身の専門分野じゃないのもあってか彼ほどじゃないが、静かに興奮してるのが伝わってくる。その表情はさすがにシモーヌと同じか。だからこそ分かるというのも事実。俺はずっとシモーヌと一緒にいたからなあ。
シモーヌがこの集落の仲間として落ち着けた頃に、様々な動植物を調べていた時の表情そのままなんだ。
さすがにシモーヌの方は慣れたのもあってかそこまでの表情を見せることはほとんどなくなったけどな。
かつてのシモーヌを思い出してしまってなんとなくくすぐったいような気分。が、タブレットの中の光景はすぐにそんな微笑ましいものじゃなくなっていったけどな。
レックスがメスを手にして、竜生の鱗を剥がし始めたからだ。
彼が使っている<超振動メス>は、タングステン並の強度を持つ竜生の鱗すら、ハムでも切り分けるかのように切り取っていったのだった。




