メイフェア編 貴重な資料
なんてのは俺の個人的な都合だから敢えて口にはしない。しないが、今のところ特に問題はないな。そういう部分に煩わされずに済むというのは本当にありがたい。人間社会で生きる時にはこの手の認識の食い違いが大きなストレスの原因になるわけで。
自分以外の人間が自分の思い通りになってくれるわけじゃないというのを割り切ってるつもりでもやっぱりいい気はしないし。
なんとなくそんなことを考えている俺が視線 を向けているタブレットの画面の中では、レックスとシオによる<竜生の解剖>が淡々と進められていた。でもまあ、まずは外見について詳細に確認してる段階ではある。
「透明なためやや掴みにくい部分はあるものの、外見上の印象はやはりオオカミ竜やクロコディアよりは鵺竜に近い感じがするね。鱗の質感が特に」
レックスがそう口にしつつ、シオと共に頭からしっぽの先まで 丁寧に触れていく。
「素手で触れることができないのが実に残念だ」
というのも本心からの言葉なんだろう。立場上無責任なことはできないのを承知しているから自制しているだけだというのが伝わってくる。
危険を省みることがない面があるのは<研究者の性>というものか。レックスの場合はあくまで理性が上回っているだけに過ぎない。
ただまあ、せっかくだから直に触れてみたいという気持ちは俺にも想像できないわけじゃないが。
その点、俺が凶の解剖をした時には、ディスポーザブル手袋を使いつつも結局は素手で触ったりもしたか。一応、惑星ハンターとして<生物資源>の調査をすることもあるからある程度の備えはしていたが、基本的には光莉号に備えられた解析機とエレクシア頼みだったからそこまで本格的なものじゃなかったんだよな。
だからこそ逆に素手で触ることもあったと。
そういうところはレックスからすると『羨ましい』と感じるかもしれない。責任ある立場だと目先の感情で好き勝手できないし。
とはいえ、彼がしっかりと理性的な人間であることは大きな助けになっているのもまた事実。自分の目先の感情を抑えてくれる彼は<錬慈に理性的な振る舞いを学んでもらうための手本>にはうってつけで、感謝感謝だ。
その彼がたっぷり三十分以上かけて竜生の全身をくまなく観察し、同時にアンデルセンと鈴夏とイレーネのカメラでも映像記録として保存していく。異なる角度からカメラで捉えることで漏れを防ぐと。加えて、映像として残しておけば後で詳細に解析もできるしな。
もう二度と手に入らない可能性の高い貴重な<資料>でもあるから逃すわけにはいかないんだろう。




