メイフェア編 解剖
そんなこんなでとにかくイレーネもコーネリアス号に到着し、準備が整ったところで<竜生の解剖>がいよいよ始まる。その様子を、俺やシモーヌや光もタブレット越しに見守る。
ちなみに俺がまだ地球人社会で暮らしていた頃には、<危険>という意味で特に慎重な対応が求められる事例の場合にはメイトギアが人間の代わりに解剖を担当したりもしたそうだ。確か以前にも触れたと思うが、高性能なメイトギアであれば<非常に高い技能を有した外科医>と同等以上のスキルを発揮することができるしな。あくまで『人間の治療は人間の手で行う』ことを前提としているから<ロボットのみによる手術>は法律でも禁止されているだけで。ましてや<野生動物の死体の解剖>についてはロボット任せでも問題はない。あくまで慣習的な意味で人間の手で行うようにしているだけなんだとか。
加えて<専門家>って奴はえてして『自分の手で』調べることを望む人種らしい。レックスとシオもそうだった。シモーヌは今回、残念ながら参加できなかったが、
「私も自分の手で確認したかったな」
とは愚痴っていた。
時間的な余裕があればそれこそコーネリアス号に出向いて参加していただろう。実の息子である錬慈のことは俺に任せて。彼女にはそういう面があるんだよ。俺としてはそれは承知しているつもりなものの、いつかは飲み込めきれなくなる可能性もあると分かってる。人間というのはそういう生き物だ。
が、今はこっちで見守るだけだ。そんな母親の膝に錬慈が座って一緒にタブレットの画面を見ている。
幼い子供には刺激の強い光景だと思うものの、ここではこの種の<血生臭い現実>はそれこそ日常の一部でしかないし、嫌でも慣れてしまうさ。
それと同時に、解剖用の台に寝かされた竜生に対してレックスとシオが手を組んで弔意と敬意を示す姿も、錬慈に見ておいてもらう必要があると思うんだよ。<人間としての振る舞いの手本>ゆえに。
そうだ。ただの<残酷ショー>を見せたいわけじゃないんだ。<命>と、<命に対する敬意>をちゃんと見せておきたい。親として。この点でもレックスとシオは適任だな。まあその辺はビアンカや久利生もしっかりしてるから、今の時点で『適任じゃない』のはルイーゼくらいか。彼女も悪意があるわけじゃないものの、悪意がないからこそ実にナチュラルに当たり前のように<好ましくない振る舞い>ができてしまう。それを見習われてしまうといささか困る。




