メイフェア編 心音
『竜生が死んだ』
物語的に考えればこんな結末はやっぱり<下の下>だろう。せっかくのキャラクターを、十分な見せ場もなく退場させるわけだからな。
ただ、何度も言うように『生きる』というのは常に誰かにとって都合のいいものとは限らないというのも厳然たる事実だ。そして誰もが、
『他の誰かを愉しませる』
ために生きているわけじゃない。ましてや他者の命をエンターテイメントとして消費しようと考えてるような奴のためにとか。
竜生は俺の家族じゃないが、それでも無責任な誰かの愉しみとして消費されるのを望みたいとは思わない。だから、家族の時のように<式>までは行わないものの、
「丁重に扱ってやってくれ」
竜生の遺体の回収に向かったホビットMk-Ⅱらにそう命じた。
もっとも、もう死んでいるんだから丁重に扱おうが雑に扱おうが竜生自身にはなんにも関係ないだろうさ。そんなのは結局のところ俺達自身の<自己満足>以外の何ものでもないことも分かってる。分かってるが、人間という生き物の場合はそういう気持ちを忘れてしまってはいささか具合が悪い面も確かにあるんだ。<野生で生きるだけならまったく必要のない過剰な力>を持ってしまった以上はな。そういう力を理性的に抑制的に使うためにも必要な感覚だと思うよ。
などと改めて考えつつ、竜生の監視任務に就かせていたホビットMk-Ⅱが遺体の回収に向かうのを見守る。もっとも<監視>と言っても、一キロ以上離れたところで何か異変があった時にすぐ駆けつけられるように待機していただけだけどな。竜生自身の姿を捉えていたのは、望遠カメラをはじめとした各種カメラを備えた ドローンだ。特に上空千メートルからは母艦ドローンが監視を行っていた。
竜生の異変を最初に捉えたのも母艦ドローンだった。
それまでは本当に普通に餌を獲り<生き物としての活動>を続けていたのが不意に動かなくなり、その映像を詳細に解析し<音>も検出することで心音が拾えなくなっていることを確認、呼吸している様子が見られないこととも合わせて<死亡>と判断されたんだ。
ちなみに、
『映像から音を拾う』
というのは、大きな音の場合はともかく心音のような小さな音だと人間の目では確認できないものの<音を発しているもの>というのは必ず振動しているからな。今はそれを解析することで<心音>だけじゃなく<声>まで傍受することができるそうだ。
建物の窓を映像解析すると中で喋ってることなんか筒抜けらしい。おっかない話だ。




