メイフェア編 覚悟を持つというのは
ああそうだ。『覚悟を持つ』というのは『気負う』ことじゃない。とにかく色々な点で覚悟を求められるここで生きてきて、それがよく分かったよ。
新のことについても、途轍もなくつらく苦しいことなのは事実でありつつ、今なお決して本心から納得できているわけではないのも事実でありつつ、
<生きるというのはそういうことだという覚悟>
を持っていたことでかろうじて耐えられているのも間違いないんだ。それがなきゃ俺はとっくに精神を病んでいただろう。新の事がある以前にすでにな。
とにかく、耐えられているのはあくまでも『覚悟を持っていたから』だと感じる。
ここで変に気負っていたらかえって歪んでしまっていたかもしれない。精神的にニュートラルでいることを保つためにも必要なんだろうさ。
『覚悟を持つ』
ということは。
いくら覚悟していても、<つらいこと>や<苦しいこと>というのは降りかかってくるもんだ。が、その一方でしっかりと覚悟を持って備えることによって防げる事態というのも確かにある。
『身構えている時には不幸は訪れない』
なんて言葉も聞いた覚えがあるが、それもあながちただ的外れってわけでもないんだろうな。
だがこの世ってのは、自分が予測して覚悟を持って備えていても、まるでそれを嘲笑うかのように<思いがけないこと>というのは起こるものだ。
いい意味でも悪い意味でも。
ただなあ、今回の件については<いいこと>なのか<悪いこと>なのか、いささか判断に苦しむのは間違いなくあるな。
「竜生が死亡しました」
起き抜けにエレクシアがそう告げてきて、俺は、
「は……?」
と唖然としてしまった。
生き物である以上はいつかは死ぬ。それは竜生も例外じゃないだろうさ。<寿命>というものを持たないとされている生き物だって<不死>ってわけじゃないしな。しかし、
「竜生に勝てるような化け物が現れたってことか?」
俺がまず思い付いたのはそっちだった。あの竜生でさえ敵わないような<とんでもない怪物>の出現を頭に思い浮かべてしまったんだ。
しかしそんな俺に対してエレクシアは、
「いえ、そうではありません。外的要因ではなく、竜生自身の内定な要因による心停止と推測されます」
あくまで冷静に淡々と口にする。そこでようやく俺も察することができた。
「生き続けるには無理がある構造だったということか……」
「おそらくは」
そこにレックスが、
「竜生の遺体を解剖して調べてみたい。回収をお願いできるだろうか?」
と提案してきたんだ。




