メイフェア編 気負うことじゃない
シオが、竜生に<コーネリアス号の乗員の意識>が備わっている可能性について否定しきれないと考えていることについて、俺達は頭ごなしに咎めたりはしない。咎めたところで意味もないしな。
それに、
『人間(地球人)としての人格を明確に再現できるほどではないものの、なんとなく影響を及ぼしている』
程度のものであることも想定できるのは、レックスも認めている事例だった。ただそれは、
『コーネリアス号の乗員としての意識がある』
と言えるのかどうか。
シモーヌもビアンカもすぐにはオリジナルが有していた意識や記憶を示すことができてなかったのが時間の経過により取り戻せたとはいえ、その<時間の経過>というのが果たしてどの程度のものまでを言うのか明確にできるほどのデータは集まっていない。ほんの数例を見ただけで決めてしまうのは<論理的>とは言えないだろ。
これも、俺達全員の共通認識だ。だから、竜生が今後それを取り戻す可能性は完全に否定されたわけじゃないんだよ。
さりとて、可能性だけで判断していてはそれこそ何も決められなくなってしまうのもまた事実。どこかで線引きをしなければいけないのは確かなんだ。これはシオも承知してる。
だから彼女も、
「可能性は否定できないけど、用心だけはしなきゃいけないのも分かってる」
と付け足してくれた。そういうところもさすがだと思う。おかげで俺達の対応にも大きな混乱はない。
そして今のペースで行くと竜生がコーネリアス号に最接近するのは十日後前後と予測されていた。そこで何が起こるのかはその時点になってみないと分からないが、とにかく受け止める覚悟だけは作っておかないとな。
それに、ちゃんと覚悟を作っておくと厄介事というのは意外と起こらないもんだ。
と言うか、覚悟して準備を整えておくとそこまで大事にならずに済むと言った方が適切か。なにしろ大事にならないように備えてるんだから、それで大事になってちゃ想定や備えが不十分だったってだけの話になるしな。
それは<不幸>や<不運>と言うよりは<油断>や<失策>の類だろうし、そう考えるとつらさはまだマシなんだろう。自分ではどうしようもない理不尽が降りかかってきた時には本当に苦しいが。
いずれにせよ、想定している状況が現実にならないうちから気を揉んでも疲れるだけだ。精神衛生上もよろしくない。
『覚悟を作る』というのは、<気負う>ことじゃない。むしろ精神にゆとりを持たせるためにすることだと俺は思う。




