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徒花と消える(少し憐れでもある)

どれほど常識外れのスペックを持っていようとも、(みずち)はやはり<生き物>だった。大量の出血は、確実にその命と力を奪っていった。


それでも(みずち)の爪や牙は非常に危険な武器になる。それが、(みずち)の喉に集中して噛み付こうとする(かい)達を傷付けないように、イレーネは巧みに庇う。


(かい)達の方も、イレーネがある意味では自分達の仲間であることは理解しており、安心して守りを任せていたように見えた。


腹からあふれ出た大量の血でぬかるんだ地面をのたうち回った(みずち)も、(みずち)に襲い掛かった(かい)達も、もちろんイレーネも、皆、血と泥で凄惨な姿になっていたと思う。


「……」


その光景に、シモーヌも言葉を失っていた。


元はと言えばコーネリアス号乗員である<クラレス>そのものだった人間部分の姿は、自らを守る為に新たに生やしたのであろう鱗に半分以上覆われ、もはやその面影はまるでなかったらしい。ここまでくればシモーヌも<それ>をクラレスだとは思えなかったのか、その名を口にすることはなかった。


明らかに力が尽きかけている(みずち)の喉を、(かい)(せん)は執拗に噛み続けた。確実に仕留める為に。野生の肉食獣そのままの姿で。


最後の足掻きで何とか二人を払い除けようとする(みずち)の両手を、イレーネが左手と左足で抑えて制する。


やがて、あれほど強大だった巨体から力の殆どが消え失せ、ビクビクと不規則な痙攣を始めた。断末魔だ。脳からのでたらめな信号に筋肉が意味のある動きをできなくなってしまっているのだろう。


そして(みずち)が完全にその動きを止めたのは、イレーネと戦闘に入ってから三十分以上が経過した頃だった。


その後の光景は、まあ、自然ではごく当たり前の光景とはいえあまり詳細に描写するのは憚られるので割愛するが、大変に食い応えのある<獲物>を仕留められて、(かい)達は実に満足げな様子だった。しかも、夜空に向けて大きく喉を逸らし、


「おおおおぉぉぉぉおおぉぉぉーっ!」


と、まさにライオンのそれを思わせる一声を上げると、しばらくして(そう)達までその場にやってきた。


で、それからはもう<宴の時間>という感じだっただろう。


不定形生物由来の生き物をそのまま食べて大丈夫なのだろうかと心配した時期もあったが、グンタイ竜(グンタイ)の女王の死骸を貪った動物達の様子を観察したりもして異常がないか調べたものの、特に問題はないようなので、好きにさせた。


こうして、草原に咲いた<徒花(あだばな)>の如き異形の獣は、種として定着することなく消えることとなったのだった。



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