メイフェア編 強い懸念
『もし竜生の目的地がコーネリアス号だったとしたら、敢えて迎え入れたいと思う』
竜生が<例の不定形生物>と邂逅しているのを映像で確かめつつレックスがそう口にしたのを、俺は、
「そうか……」
自分でも意外なほど冷静に受け入れていた。彼ならそう言いそうだという予感めいたものがあったのかもしれない。
しかしこれに対して、
「僕としてはその考えには賛同しかねるかな」
と言葉を発したのは久利生だった。続けて、
「竜生が思った以上に理性的であるのは僕も感じてる。けれど、もし僕達の仲間の意識を備えているのだと仮定しても、コーネリアス号内においてどのような行動に出るのかは予測がつかない。竜生の力で暴れた場合、コーネリアス号の機能に重大なダメージを受ける可能性があるからね」
淡々と自身の<意見>を述べながらも、<強い懸念>を提示してくれた。
彼の言うことももっともだと思う。俺達が今の暮らしをできているのはコーネリアス号の<機能>があってのことだ。特に<工作室>の存在は、
<惑星朋群での人間としての暮らし>
を強力に担保してくれている。<ファクトリー>を作って必要なものの多くがそこで作れるようになったとはいえ、ファクトリーに再現された設備では作れないものも今なおある。そういうものについてはコーネリアス号の工作室で作るしかない。
もしその機能が失われでもすれば損失は途轍もないものになるだろう。
<日常的な生活に必要なもの>
だけであればファクトリーでも十分ではありつつ、実はエレクシアやイレーネの義手及び義足は、コーネリアス号の工作室でなければ今の性能を維持できないんだ。工作機の精度が桁違いだからな。
また、<メイトギア用のメンテナンスカプセル>も、二千年分の技術差のせいもあり光莉号のそれとは互換性がなく、セシリアやメイフェアやイレーネはコーネリアス号のそれでないとメンテナンスが受けられない。
さらにはコーネリアス号に装備されていたローバーのメンテナンスも、コーネリアス号でなければ十分なものはできない。
いずれもレベルを下げれば代替品や代替案は用意できる。セシリアやメイフェアやイレーネについてもいざとなれば、アリアンや鈴夏のように別のボディに載せ替えることも不可能じゃない。
ただそうなると、アリアンはともかく鈴夏のように精々が二十五世紀相当のロボットになってしまう。単体では牙斬に到底敵わなくなってしまうだろうな。
そこは数と戦略で何とかするにしても、痛手であることは間違いない。




