メイフェア編 竜生の目的地
とにかく、そんなあれやこれやがありつつも、誉達は平穏に暮らしている。
竜生もだ。もちろん狩りによって糧を得てそれをその場で喰らう血生臭い殺伐とした日常ではありつつ、野生の場合はそれ自体が<日常>だからな。
しかし同時に、竜生自身は何か急かされるような追い立てられるような様子もないんだよ。ほぼ一直線にどこかを目指しつつも、急いでいるわけでもなさそうだ。
だがこの日、河に突き当たった竜生が緊張した気配を放っていた。その視線の先には、<例の不定形生物>。
『<不定形生物由来の獣>が<不定形生物>と邂逅したらどうなるか?』
が確かめられそうだ。基本的には一度決まった形を取ってしまうと二度と元には戻れなくなり、しかも不定形生物としての生態が失われてしまうことは分かっていた。ということは、<ただの獣>として狙われるのか、それとも<仲間>として見逃されるのか、確認できるチャンスということだ。
と、河の中にいた不定形生物が滑るように|向かってくると、
「!」
竜生がさっと身を翻して密林の中に身を潜めてしまった。不定形生物がなぜ近付いてきたのかは分からないにしても、少なくとも竜生の方は仲間とは認識していないようだな。これはまあシモーヌやビアンカや久利生やシオやレックスの証言からも分かっていたことだ。
「別に仲間って感じもしないな」
シモーヌもそう言っていたし、ビアンカ達も皆同じだそうだ。さらに竜生の反応からもその可能性が高まった気がする。
それでも、不定形生物の方がどう認識しているかはよく分かっていないんだ。
しかし竜生は河を越えたいようで、しばらくするとまた岸に姿を現した。今度は不定形生物の姿はない。ないが、竜生の方は強く警戒している。
と、河の流れの一部が不自然に揺らいだのが分かった。水中にいたのが浮かび上がってきたようだ。竜生がまた近付いてきたのを察知したんだろうか。
だがここにきて、
「このまま真っ直ぐ行くと今度はコーネリアス号に接近する可能性が出てきたね」
レックスがそう告げた。
<アカトキツユ村>の時にも結局は方向がそうだったというだけで竜生の<目的地>ではなかった。だから今回こそは冷静に見極めなければと思う。
それに、コーネリアス号までは数十キロの距離がある。今の時点で浮き足立つのはさすがに情けないというものか。
その上でレックスは言う。
「もし竜生の目的地がコーネリアス号だったとしたら、敢えて迎え入れたいと思う」




