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メイフェア編 むしろ当然

メイフェアが(ほまれ)と出逢って彼を<仮の主>と認めて仕えて三十数年。その間、彼女は実によく(ほまれ)に仕えてくれた。身の程をわきまえて一定の距離を保ちつつ余計なことは望まず、ただ彼の傍にいてくれたんだ。


人間(地球人)の場合、そこまでできる者は滅多にいない。いないことはないにしてもその数は本当に限られてるだろう。老化抑制技術が確立される以前によくあった、


<熟年離婚>


というのがまさにそれを物語ってるよな。何十年も一緒に暮らしてきたというのに、それまで一緒に暮らしてきた時間よりももう残りは少ないであろうことが分かってきた頃に関係を解消しようとするんだからな。むしろ残りの時間が限られてると感じたからこそ耐えきれなくなったんだろうと、俺にも想像はできるよ。


もちろん熟年離婚に至らない例もあるんだろうが、それはあくまで<離婚>という選択までは取れなかっただけで、伴侶と一緒にいること自体がすでにただの苦痛になっているなんてのもありふれていたんじゃないのか?


本当に一生、望んで一緒にいることを良しとした例はむしろ少なかったんだろうな。


老化抑制技術が実用化されると、それこそ皆、<我慢>をしなくなった。離婚を選択できなかった理由も、


『その後の人生設計が考えられなかったから』


ってのがあっただろうが、たとえ結婚して数十年が経っていてもまだまだ若さを保っていられていくらでもやり直しが利くとなれば、そりゃやり直すことを選択しない理由もないだろう。お互いに。


だから離婚率は一気に九十パーセントにまで跳ね上がったとも聞く。


それについて苦言を呈する者もいたが、その<苦言を呈する者>自身が結局は後に離婚したりして、説得力の欠片もなくなっていったそうだ。


で、やがて離婚や再婚に対する忌避感も薄れていって、当たり前になっていったと。


俺とシモーヌの関係についても、このまま生涯続くとは限らない。お互いに<相手に対する不満>がまったくないわけじゃないしな。シモーヌは俺が(ひそか)達を今も愛していることについてわだかまりがないわけじゃないし、俺もシモーヌの、


『興味のあることに没頭すると周りが見えなくなる』


という部分が、彼女らしさであると感じると同時にもやっとしてしまう時があるのも事実なんだ。それが積もり積もっていつしか無視しきれなくなる可能性は十分にあるんだよ。


だがそれは決して<悪いこと>じゃない。お互いに<別の人間>である以上はむしろ当然なんだ。



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