メイフェア編 子孫の呼び方
俺がここに不時着した時にもう<老化抑制処置の効果>は残り七十年ほどだったから丸々二百年もの時間があったわけじゃないが、それでも、
『十年ごとに次の世代が生まれてくる可能性が高い』
ここなら、<来孫>どころか<昆孫><仍孫><雲孫>だって見ることは十分に可能だろう。
ちなみに、老化抑制処置が実用化される以前は雲孫に出会える可能性なんてのはないに等しかったのもあってそれ以降の<子孫の呼び方>ってのは具体的にはなかったようだが、今でも<正式>とされる言い方はないそうだが、
<穹孫>
<星孫>
なんて造語が出てきたりはしてるらしい。
<雲の上の蒼穹>
<蒼穹の上の星>
的なニュアンスということか。
とはいえ実際にそこまでの子孫と対面したという話は、真偽不明の都市伝説的なものはともかくとして実際には聞いたことがないから、やっぱり何代も続けて早々に子供を迎える例はないということだろうな。
そもそも急いで子供を作る必要が今の地球人社会にはないからなあ。
『早く孫の顔を見せろ』
的なことを言う親はいるにしても、その『早く』が数十年単位の猶予があるものなんだよな。
例えば俺と同じように百三十歳代で子供ができたとしても成人するまで約二十年だから、子供が成人した時点でまだ老化抑制処置の効果が五十年くらいは残っている。しかも効果が切れてからでも二十年三十年と時間を掛けて老いていくわけだから、
『早くしないと親が死んでしまう』
なんて話自体の猶予が大きいんだ。となれば親自身もそこまで焦らない。で、親が実際に老いてきてそれを実感すると、
『もう十分に楽しんだし、そろそろ孫の顔を見せてやってもいいか』
的に考えて『子供を』となる人間が多いらしい。まあ、生まれて百年、成人してからでも八十年ばかり気ままに人生を楽しんだ上にそれだけ経験を積んだら、そんな理由で割り切れても不思議じゃないのかもな。
それでもなお子供を持たない選択をする者も多いとはいえ、出生率そのものはギリギリ人口がわずかずつ増えていくレベルが維持されてるそうだ。<出産><育児>に関する負担も、少子高齢化が深刻化した頃に比べれば微々たるもんだし、ハードルは確実に下がってる。メイトギアがサポートしてくれる上に、医療も教育も十八歳までは無料なところがほとんどだし。
ただ、<AI・ロボット排斥主義者のコミュニティ>の場合だと、AIやロボットを使ってコスト削減が行えないことで、そこまで手厚くはできないらしいが。




